【試乗】SUVではないというフェラーリの「いい訳」も乗れば真実に変わる! プロサングエが見せた「あくまでフェラーリ」な世界
プロサングエは純然たるフェラーリ
わが社がSUVを生産することはない。インタビューの機会があるたびに、フェラーリの首脳は我々にこう答えてきた。だが、ほかのプレミアムブランドの動向を見るかぎり、SUVが非常に大きな利益を生み出していることは間違いのない事実であり、フェラーリもそれに興味をもたないことはありえないと世界のフェラーリスタは予想していた。 【写真】フェラーリがSUVをやるとこうなる! プロサングエを徹底チェック(全59枚) そのようななかでフェラーリは、「プロサングエ」、つまり純血=サラブレッドを意味する名を掲げたニューモデルを発表してきた。その姿はまさに高い実用性をもち、これまで彼ら自身が否定してきたSUV。 だがフェラーリはこうコメントした。それはスーパースポーツの新しい種であり、純然たるフェラーリでありSUVではないと。 彼らのいうことは、そのドライビングシートに身を委ねてみれば一瞬で理解できるだろう。外観から想像する以上にそのドライビングポジションは低く、スポーツカーのそれと評することに何らの抵抗はない。 ボディサイズは4973×2028×1589mmと確かにコンパクトサイズとはいえないが、デザインの妙がそのサイズを感じさせない理由となっている。 フェラーリはこれまでに2+2GTでGTC4ルッソ、FF、612スカリエッティといった作を市場に投じているが、いずれもそれらがデビューしたときの衝撃は大きかった。とくにハッチバックに4WDのメカニズムまでも搭載したFFは、賛否両論こそ巻き起こしたものの、その走りはあくまでもフェラーリの正常進化の途上にあったことを思い出す。 それと同じことがプロサングエにも起きたとすれば、それはただ単にSUVのスタイルにデザインされた、フェラーリ伝統のスポーツカーという解、そのものは変わらないのだ。
フェラーリらしさを保ちながらより快適な走りに
それにしても、プロサングエというニューモデルは、最初から最後まで快適性に徹したモデルであるように感じる。電動ヒンジの後ろ開きドアをもつ後席へのアクセスはもちろんすばらしく、左右独立式の2シーターとなる後席は、ホールド性が素晴らしいのに加えて個別のリクライニング機能やヒーター、ベンチレーション機能ももつ。その背後にあるのは後席使用時でも473リットルが確保されたラゲッジルーム。 一方フロントシートまわりの造形も、現代のフェラーリらしく未来的な感覚を抱かせるもので、試乗車には助手席側にも10.2インチサイズのディスプレイさえも装着されていた。 メーターパネルはフルデジタルのディスプレイだが、こちらもすでにフェラーリのモデルでは、いつしか違和感を覚えることもなくなった。 フロントミッドシップされる6.5リッターのV型12気筒エンジン、「F140IA」型は、そのスムースさとともにサウンドと振動のレベルが明らかに小さなものになった。これもプロサングエを使うカスタマーの要求を意識したものと考えられる。フェラーリの12気筒エンジンの特長はそのままに、それをいかに快適に車内に取り込むのか。フェラーリはここにプロサングエのエンジンチューニングにおける主眼をおいたように感じられた。 参考までにこの12気筒エンジンは、最高出力が725馬力、最大トルクは716Nmという性能。エンジン前方に組み合わされたPTU(パワートランスファーユニット)で前輪に、そしてトランスアクスル方式でリヤアクスルに位置する8速DCTで後輪にトルクは伝達される4WDシステムをもつ。 タイトなコーナーからの脱出時など、PTUの効果には、カスタマーは大いに感動させられるに違いない。そしてこれは、プロサングエのメカニズムで最大の特長といえるのが、4輪の車高をダンパー内の電気モーターによって個別に制御するフェラーリアクティブサスペンションテクノロジー(FAST)の効果だ。 この技術の心臓部ともいえるのが、トゥルーアクティブスプールバルブ(TASV)。48V電流を用いる電動モーターがストローク調節を行うためのこの機構は、マネッティーノなどと統合制御され、つねに理想的な減衰力を生み出してくれる。 じっさいに感じるFASTの動きは、じつにスムースで安定したものだった。乗り心地も低速域ではやや硬めの印象を与えるものの、市街地を抜けるとその印象も消え去り、乗り心地はフラットなものに変わる。ステアリングの正確性も、このプロサングエをワインディングにもち込むときには大きなアドバンテージとなるだろう。 大柄なボディでも、これだけ正確なステアリングがあれば正確なラインをトレースすることは難しくない。もちろんエンジンのレスポンスも魅力的だ。 SUVではなく、あくまでも新しい姿カタチをしたフェラーリのスポーツカー、プロサングエ。フェラーリにはすでに数年分のオーダーが届いているというが、それも当然のことだろう。話題のフェラーリを新車で買う難しさだけは、このプロサングエも変わらないようだ。
山崎元裕