寄付総額が昨年度、初めて1兆円を突破した「ふるさと納税」。創設から今年で16年となり、定着が進むが、高齢者にはあまり浸透していない。ただ、高齢者に適した返礼品も多い上、災害支援といった社会貢献につながるものもある。関係者は「お得感とともに、自分の寄付が何かの役に立つことを感じることも大事だ」と話す。 【グラフでみる】ふるさと納税の年代別寄付実施状況 「ふるさと納税って、稼いでいる人のためのものでしょう。私は年金暮らしだから。手続きもよく分からないし」。埼玉県の80代女性は、ふるさと納税についてこう語る。新聞やテレビで制度は知っているが、仕組みや返礼品については詳しくないという。 楽天インサイトが令和3年に行った調査によると、同年度に返礼品を受け取ることのできるふるさと納税に「寄付した」もしくは「寄付する予定」と回答した割合は、20～40代で男女ともに4割を超えたのに対し、60代では男性が25.8％、女性が17.5％だった。利用の中心は現役世代といえる。 高齢者には「年金暮らしだから利用できない」と誤解している人もいる。制度利用を仲介するポータルサイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクでマーケティングを担当する伊藤健作・地域創生エバンジェリストは「年金暮らしの人でも、住民税と所得税を納めていれば問題なく利用できる」と説明する。 伊藤氏によると、ふるさと納税の返礼品には高齢者に向いたものも多いという。例えば重い飲料や米。自ら買いに行くのは大変だが、返礼品として自宅に配送されれば便利だ。定期配送を設定することもできる。ゴルフ場利用券や食事券、宿泊券といった「コト消費」の返礼品も、時間に余裕のある高齢者との相性がいい。 「お墓の見守り」サービスの返礼品もある。寄付額によって年1回から数回、寄付した自治体や周辺地域にあるお墓の清掃をしてくれるもので、全国各地の自治体が行っている。 返礼品として商品をもらうのではなく、社会貢献に直接つながる仕組みもある。各ポータルサイトでは自然災害の被災地を対象に、返礼品のない寄付という形でのふるさと納税を受け付けている。能登半島地震の被災自治体には、ふるさとチョイスを通じて6月時点で20億円以上が集まった。経済的に厳しい子育て世帯へ食品を届ける「こども宅食」への支援に、ふるさと納税を活用している自治体もある。 伊藤氏は「自分の寄付がどのように社会や地域の役に立ったかを知ると、お得感以外の価値を見いだすことができる。その地域のファンにもなってもらいたい」と話している。