サニブラウンの9秒96でもパリ五輪男子100m決勝に進出できなかった記録をどう評価すべきか…“超高速化”の新時代に乗り遅れた?
テレビ中継のゲスト解説の100mの元日本記録保持者で北京五輪の4×100m銀メダリストの朝原宣治氏は、「これまでは9秒台を出せば必ず決勝にいけていましたが、新時代に突入した感じがします。この舞台で9秒96を出すのは本当に凄いことですけど、さらに上回る選手がいたのは驚きです」とサニブラウンの走りを評価しつつ、世界の高速化に震撼していた。これまで五輪の決勝進出ラインは東京五輪の10秒00が最速だった。僅か3年で0秒07も高速化したことになる。そのあたりをサニブラウンはどう感じているのか。 トップとの距離は縮まっているんですか? という質問に、「う~ん」と少し考えると「縮まっているといえば縮まっているんですけど、世界の皆さんもどんどん先に行っているので、ちょっとずつ追いつくだけでは足りないなと身に染みて感じました」と答えた。 近年はスパイクの進化もあり、男子100mのレベルは急騰している。ではどれぐらい上昇しているのか。近年の9秒90未満と10秒00未満の人数は以下の通りだ。 2017年 1人、19人 2019年 4人、19人 2021年 11人、24人 2023年 12人、40人 2019年と2023年を比べると9秒90未満は3倍(4人→12人)、9秒台は倍増(19人→40人)しているのだ。今季もすでに9秒90未満は11人、10秒00未満は34人いる。 サニブラウンは以前、「オリンピックでメダルを取るには9秒8台はしっかり出していかないといけません」と話していたが、常識を変えていかないといけないだろう。 パリ五輪の決勝ではライルズとトンプソンが9秒79(+1.0)をマーク。写真判定の末、ライルズが金メダルに輝いた。3位はカーリーで9秒81。7位までが9秒8台になだれ込んでいる。 かねてから目標は「金メダル」と豪語してきたサニブラウン。レース後には、「僕の競技人生はこれで終わりじゃないので、目標は変わりません。この悔しさを胸に、また頑張っていきたいです」と話していたが、このままでは目標に届くとは思えない。 なぜならサニブラウンの成長率が世界に置いていかれているからだ。あのレベルになると自己ベストを更新すること自体が難しくなるが、世界王者・ライルズとサニブラウンの差は年々、広がっている。 27歳のライルズは2017年に9秒台(9秒95)に突入すると、2018年に9秒88、2019年に9秒86、2023年に9秒83、2024年に9秒79と自己ベストを短縮した。一方、25歳のサニブラウンは2019年に9秒97の日本記録(当時)を樹立した後、ようやく今年のパリ五輪で自己ベストを更新する9秒96をマークした。 「速く走る」ことと大舞台でパフォーマンスをしっかり発揮するのは別の〝能力〟だ。サニブラウンは後者の能力はすでに何度も実証している。世界と本気で勝負していくには、タイムをグッと短縮するしかない。 来年は東京世界陸上が開催される。決勝進出には「9秒8台」、メダル獲得には「9秒7台」が必要になるという〝新常識〟を身に着けて、高い目標に立ち向かっていっていただきたいと思う。サニブラウンにはそれだけの〝才能〟があるのだから。(文責・酒井政人/スポーツライター)
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