「コスパのいいこと」だけやり続けた人の末路【ヤマザキマリが教える】
*本稿は、現在発売中の紙媒体(雑誌)「息子・娘を入れたい会社2025」の「Visionary Leader 『多様性の時代』生き方、働き方」を転載し、後半を加筆したものです。 企業でも個人でも多様性がますます尊重される時代に入っていく中で、どのように生き、働いていけばよいか、経験豊かな5人のプロフェッショナルに聞いた。2人目は、『テルマエ・ロマエ』などのヒット作で知られるヤマザキマリ氏。海外暮らしを経た人生観、昨今のコストパフォーマンス・タイムパフォーマンスを優先する時代性への向き合い方、表現者としての信条から未来の作品への意欲など、インタビューの後編をお届けする。(取材・文/木俣 冬) ヤマザキマリさんの自宅の仕事場 >>前編から読む ● 歴史や地理を知ることで 価値観が違う人を理解する ヤマザキマリさんは現在、東京造形大学客員教授、日本女子大学特別招聘教授を務めている。美術の話を中心に、仕事論や国際交流などについて講義する際、欠かせない話題がある。それは歴史の話だ。 「どんな教科であろうと幹には歴史があると思うんです。人文系のみならず、数学や科学のような学術も古代から存在します。紀元前の人たちがなぜ数学や科学に感心を持つようになったのか、その歴史を知ることで理系の学問も奥行きが増すのではないでしょうか」 これまで、エジプト、シリア、ポルトガル、米国、そして再びイタリアと、いろいろな国で暮らしてきた(その間に結婚)。そこで、日本とは異なる文化を知った。 「どこの国で暮らしても波乱万丈でしたが(笑)、生きるなんてのはこんなものだろうとやり過ごしてきました」
● 日本ではよくないとされる「ずる賢さ」も 地中海世界では褒められる 異国では倫理観や価値観、そして宗教もさまざまで、共有することは難しい。「例えば、ずる賢さは、日本ではよくないとされていますが、地中海世界では『おまえなかなかずるいな、いいぞ』と褒められます」 歴史や地理の相違によってそこでの生き方が変わっていく。例えば、砂漠で暮らす人たちが水の調達という死活問題に直面したとき、ずる賢さは生きるのに必要なことだとヤマザキさんは理解を示す。 「信じることが美徳というのは世界共通ではない。信じていたのに裏切るなんてひどい人、という考えが通用するとも限らない。信じたおまえが悪いとなる国もある」 倫理観や価値観が違う人とはどう接したらいいか。「そもそも持っている物差しが違う、ということの認知は基本」だと言う。 「自分たちのルールとは違う考え方の人がいたとしたら、その人の生きている環境や背景にも目を向けること。あらゆる差異を否定しない。むしろ発展的な視野や理解力を得るためには必須です」 この世には自分の知らないことがたくさんある。ヤマザキさんが世界を旅し、暮らした実体験は漫画にも生かされている。 代表作『テルマエ・ロマエ』は古代ローマ人の主人公がタイムスリップした日本の風呂文化を学んで古代ローマの風呂に生かしていく物語である。『プリニウス』は博物学者にして、艦隊の司令長官プリニウスが火山の噴火や雷といった自然現象や、動植物の生態などを観察するために古代ローマ帝国中を旅する。主人公たちの探究心は、ヤマザキさんの異文化を理解する実体験があってこそ、生き生きと説得力が増す。 「自分の足をしっかり地面に着けて、地球の引力を感じながら歩くことで、地球が長い時間をかけて何を見てきたのか知ることができます。誰かに頼らず、自分の足で歩くことで安心感も生まれる」