ドナルド・トランプの登場から共和党はどう変わったか
民主主義への敵対的姿勢
トランプの台頭に際してもう一つ注目されたのが、陰謀論者や白人至上主義者も巻き込んだ、およそ民主主義と相いれない政治姿勢である。陰謀論は共和党とその支持者に広く浸透し、2022年の選挙では、20年大統領選挙でのバイデン当選の正当性を認めない共和党候補が数多く当選した。24年に入って、バイデンの当選を疑問視する共和党支持者はむしろ増えている(※6)。 トランプ自身、08年大統領選挙の際にオバマが外国生まれだとする「バーサー運動」をけん引するなどした陰謀論者であるが、陰謀論者などの非民主的な勢力は必ずしも共和党の外からやってきたわけではない。近年の研究は、これらの勢力が政治の表舞台に出にくかっただけで、長年にわたり保守の主流派と密接なつながりを持ってきたことを明らかにしている(※7)。 共和党とその支持者は、トランプの登場前から陰謀論的、非民主的な政治との親和性を強めてきた。保守派の多くが信頼するフォックス・ニュース・チャンネルは、露骨に事実を歪曲したり陰謀論的な見方に立ったりすることで知られる。また、共和党優位の州を中心に、さまざまな形で投票権の行使を制限するような立法が相次ぎ、「民主主義の後退」が懸念されている。政治全体で、党派間で嫌い合う「感情的分極化」も進んでおり、そこにトランプらのポピュリズムが加わって、対立党派を負かすには法を犯してもかまわないという姿勢が、とくに共和党支持者で目立つようになっている(※8)。 ただし、共和党が完全に非民主的姿勢に染まったともいえない。自由や平等といった国是と相いれないだけでなく、一般に人々の権利が保障されている社会の方が長期的には経済成長するとされ、同党の重要な支持母体である財界にとっても「民主主義の後退」は好ましくない面があるからである(※9)。22年の選挙以降も、とくに各州の共和党で「トランプ的」な勢力とその反対派の攻防が続いているのは、その証左といえよう。