ドナルド・トランプの登場から共和党はどう変わったか
「アメリカ・ファースト」の衝撃
労働者の動員とならんで、トランプが「アメリカ・ファースト」を掲げたことは、大統領が対外関係について大きな権限を持つだけに人々に驚きを与えた。彼は政権につくと、中国を始めとする競争相手に高関税をかけるなど、米国の目先の利益を最優先して行動した。2022年以降のウクライナ支援への消極化にみられるように、共和党の多くの政治家がそれに追随している。共和党は従来、民主党に比べても自由貿易と対外関与を重視しており、これは重大な転換であるが、国力の長期的低下に対する米国の適応の一環として理解できる。 通商については、16年の選挙時にも環太平洋パートナーシップに対して民主党側からも反対が強まるなど、自由貿易への支持が全体に弱まっていた。米国は小選挙区制をとるため、選挙を戦う政治家は地元の産業や支持層の保護を支持する誘因をもつ。そのため、唯一全国規模で選出される大統領に長期的な国益にかなう自由貿易の推進が託されてきた。その大統領が保護主義に走れば、支持層への配慮や中国などへの競争意識から他の政治家が受け入れても不思議でない。バイデン政権も、「トランプ関税」の大半を維持し、一部は引き上げている。 安全保障でも、今世紀初頭からの「テロとの戦争」が泥沼化して以降、対外関与への消極化が目立つ。バラク・オバマ大統領が、無策を批判されたシリア内戦に関する13年の演説で「米国は世界の警察官でない」と述べたのは象徴的である(※5)。トランプの同盟軽視の態度は、極端であるもののその延長上に位置づけられよう。19年には、抑制的な対外政策を目指すシンクタンクのクインジー研究所が超党派の財界人や専門家によって設立されている。 ただ、24年4月にもウクライナやイスラエル、台湾などについて共和党議員からも一定の賛成票を得て支援法案が成立しており、共和党全体が「内向き」になったわけではない。トランプも、ここへきてウクライナ支援にやや前向きになるなど態度が一貫しない。当面の間、共和党側が対外関与を支持・容認するかどうかは状況次第ということになろう。