集票目当て?“密室”で決まった「酒の安売り規制法」 山本太郎氏のみ反対
舛添要一前都知事の疑惑がマスコミをにぎわす中、消費者の懐を直撃する恐れのある法律がほとんど審議されずに、事実上、全会一致で先月末にひっそりとスピード成立した。「酒税法及び酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律の一部を改正する法律案」で、量販店によるビールなどの行き過ぎた安売りを規制するのが狙い。その効果のほどはともあれ、参院選を前に各会派とも「街の酒屋さん」票を目当てに法案成立を会期内に滑り込ませた格好だ。
衆院では委員会審査を省略、全会一致で可決
まずは異例ともいえる酒の安売り規制法(改正法)の成立過程をたどってみたい。スーパーやディスカウントストアとの価格競争に太刀打ちできない街の酒販店団体から要望を受け、自民などは本来この改正案を議員立法として昨年の国会で成立させる予定だった。 だが安保法制に予想以上に時間を取られたため、今年の通常国会に場を移して衆院は5月10日に法案を受理。通常国会の会期終了の6月1日をにらみ、与野党間の談合が成立したためか、付託された委員会での審査をなんと「省略」し、受理から2日後の12日の本会議にて全会一致で可決した。 参院でも状況は同様だった。委員会審査が5月26日に行われたとはいえ、質疑はなく、民進党議員の賛成討論のみで採決し、全会一致で可決。翌27日の本会議では224対1で可決・成立した。反対は山本太郎氏(生活)のみだった。
“狙い撃ち”された量販店側には警戒感も
「街の酒屋さんを守るための法律」――。 一部ではそう評される改正法は、財務相が酒類の製造・販売業者の価格に関する「公正な取引の基準」を新たに決め、基準に従わない業者名の公表や是正命令のほかに罰則も新設され、命令違反業者には販売免許の取り消しや罰金などが科される。 酒類の販売に関して国税庁は2006年8月に「公正な取引のための指針」を明示し、「価格は『仕入価格+販管費+利潤』となる設定が合理的」としている。だが原価割れでの販売事案は昨年までの過去7年で4000件超。仕入れ価格を下回るような「不当廉売」に対する公正取引委員会の注意件数についても、酒類販売が6割超を占める一方、これまで罰則規定はなかった。 罰則付きの改正法によって狙い撃ちされた形の量販店側の反応はどうか。 「国税庁の指針がすでにあり、公取委も対応しているのに法律を改正する必要があったのでしょうか」と疑問を呈するのは大手スーパーの業界団体・日本チェーンストア協会の担当者。「客寄せのためのケース売りなど過去には指導も受けましたが、10年も前のことです。私たちスーパー側はこれまで通りにルールを順守していきます。財務相による新たな『基準』というのも国税庁の現在の『指針』と大きくは変わらないでしょうから、売り場の現状が激変することはないと思っています」と話す。 ただ酒類販売に特化した量販店の中には、過度な安売りに対応する行政機関が公取委から国税に代わったことへの警戒感も。都内の酒類ディスカウント店は「安売りチェックの対応機関が国税に移管することで、タレこみを受けた各地の税務署による監視が今より頻繁に細かくなる恐れも」と眉をひそめる。