映画『家出レスラー』でプロレス指導 俳優をプロレスラーに変えた朱里のトレーニング
映画だからといって、演じる場面だけの練習、稽古をするわけではない。どんな場面を演じるか決まっていなかったこともあるが、大切なのはプロレスとはどういうものか知ってもらうこと。まずはこれらの動きができなければ、プロレスの場面は演じられないのだ。また、実際にはレスラー&練習生役でありながら試合場面、アクションシーンのないケースもあった。それでもプロレスの練習は行なった。レスラーを目指す人の気持ちを体で理解してもらうことが必要だったのだ。 その後、各自が演じる場面の構想が定まってくると、そのシーンを想定した練習を加えていく。また、プロレス指導はひとりだけではなく、準主役級の向後桃や、壮麗亜美、星来芽依、水森由菜にも手伝ってもらった。 「徐々にですけどみんなどんどんよくなっていって、練習はきついけど楽しいと言ってもらえるまでになりました。安川惡斗イメージの巨瀬川を演じた都丸紗也華ちゃん、美闘陽子イメージの御堂晶を演じた根岸愛ちゃん、紫雷イオイメージの紫炎リオを演じた平嶋夏海ちゃん、マユと同期の佐藤シオを演じた小坂井祐莉絵ちゃん。そして、世IV虎イメージの東子を演じたゆきぽよちゃん、岩谷麻優の平井杏奈ちゃん。撮影のときは大丈夫かなと見ていて不安だったんですけど、みんなすごく成長してて、カッコよく決めてくれたりして、感極まっちゃいましたね…(涙)。ホント、こうして一つの作品が出来上がったのかと思うと今でも涙が出てきて、すごい感動というか。舞台あいさつしたときも、出ていった瞬間に泣きそうになりました」 マユ役の平井杏奈がだんだんホンモノの岩谷麻優にしか見えなくなってくるのも、朱里からのトレーニングによる成長過程と並行している。はじめは何もできなかったという平井が岩谷マユとなり、クライマックスでは朱里演じる羅月と堂々の勝負。さすがに大技シーンは現役レスラーによるスタントとはいえ、そこは映画のマジックで違和感は皆無である。 こうして出来上がった『家出レスラー』のプロレスシーン。「まずはプロレスファンになめられないこと」がプロレス関連の場面では最優先された。そのうえで、ひとりの女性の人生逆転ドラマとしても見応えのある作品となった。それはまた、いつの時代にも通じる普遍的な物語である。
文・写真/新井宏 画像提供/映画『家出レスラー』製作委員会