「石破首相」を選んでも地獄、「野田首相」を選んでも地獄…国民民主・玉木代表がこれからたどる"いばらの道"
■維新「大阪組」「非大阪組」の考え方の違い それだけではない。両党とも党首は「自民党からの秋波」に浮き足立っているかもしれないが、実のところどちらの党内にも「与党寄り」「野党寄り」の考えが混在している。 まず維新である。同党は主に大阪組と非大阪組の間で、議員の認識に差がある。大阪組は、地元で大阪府と大阪市の行政を握る与党であり、大阪万博事業などを通じて「国とのパイプ」も重視する。 一方の非大阪組は、立憲民主党の党勢が低迷していた頃、自民党への対抗勢力の立場を期待されて当選した議員も多い。立憲と政策の開きはあっても、自民党に対峙する意識は強かったりする。今回の衆院選の前には、若手議員から「立憲と選挙区調整すべきだ」「自民党(候補)を落選させるためなら(立憲に選挙区を譲るため自分が)立候補を辞退してもいい」という声さえ出ていた。 大阪組の吉村洋文共同代表(大阪府知事)も、立憲の野田氏が「裏金議員の出馬する小選挙区での野党候補一本化」を提唱すると「筋が通っている」と理解を示した。吉村氏は衆院選後、維新の選挙結果について「野党の中で1人負け」と評し、代表選の実施を訴えた。あからさまな退陣要求ではないが、馬場氏に今後も党のかじ取りを任せるべきかをもう一度考えよう、と主張しているのだ。 馬場氏は29日のBSフジの番組で、維新がもし代表選を実施する場合、出馬しない可能性に言及した。早くも「モテ期」どころではなくなりつつあるわけだ。 また、衆院選直前に維新入りした前原誠司氏は、確固たる「非自民・非共産」路線の政治家だ。維新が自民党との連携路線を取った場合、果たして党に残れるのだろうか。 ■国民、維新こそ自民、立憲以上に正念場に立たされている 国民民主党の場合はさらに、支持基盤の連合という大きな問題がある。 同党にはもともと①自民寄りの玉木氏ら、②「非自民」志向の前原氏ら、③連合の組織内議員ら――の三つの系統があり、②の前原氏は①の玉木氏らとの路線対立の末に党を去った。そして③に大きな影響を与えている連合は、立憲民主、国民民主の両党が連携して、自公に代わる政権勢力となることを望んでいる。芳野友子会長は国民民主党と自民党の連携について「玉木代表が明確に否定している。連合はその言葉を信じていく」と釘を刺した。 これまで自民党の「1強」体制のなかで、維新や国民のような「第三極」政党は「是々非々」と称して与党と野党の「いいとこ取り」をしながら政界を遊泳できた。しかし「自公過半数割れ」という事態によって、こういうモラトリアム的な態度は、もはや許されなくなっている。 両党が明確な態度を示せなければ、自民党も立憲民主党も、やがて政党全体への働きかけから、党内の個々の議員への「一本釣り」に戦略を変えるかもしれない。場合によっては党分裂の危機だ。 本当に正念場に立たされているのは、自民党や立憲民主党以上に、彼ら「第三極」政党なのだと思う。 ---------- 尾中 香尚里(おなか・かおり) ジャーナリスト 福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)、『野党第1党 「保守2大政党」に抗した30年』(現代書館)。 ----------
ジャーナリスト 尾中 香尚里