蕨市・川口市「在日クルド人問題」支援団体代表者が語る“ヘイト”の連鎖が止まらない背景
地域住民はクルド人のことをどう思っているのか?
――最近では「蕨市・川口市でクルド人が犯罪を行っている」 「クルド人の問題について地域の住民が苦情を出している」という報道が増えています。 温井氏:大前提として、私たちは犯罪を行う人を擁護するわけではありません。在日クルド人の団体である「日本クルド文化協会」も、犯罪者は擁護しないと公言しています。しかし、一部の在日クルド人が犯罪を行ったことを、民族に結びつけて「在日クルド人」全体の問題にすり替えることには反対します。それは差別です。 団体の活動を始めたころから、「ごみ出しのマナーが悪いクルド人がいる」など苦情を地域住民から受けて対応をすることはありました。しかし、蕨市や川口市に住んでいる人たちからの苦情よりも、むしろ、市外に住んでいる人たちからの差別的なメールや電話のほうがずっと増えています。 もちろん、地域住民のなかには在日クルド人のことをよく思っていない人もいるでしょう。しかし、「在日クルド人のことを知りたい」 「より良く共存したい」と思っている人もいます。トラブルが発生しても、「追い出せ」とまで言う人はほとんどいません。 一方で、ネットを中心に行われるヘイトスピーチは激しさを増しています。私たちのところにも「クルド人皆殺し万歳」と何度も繰り返すメールなどが届いたりしました。このようなヘイトスピーチが送られることに対しては見過ごすわけにはいきません。弁護士に相談して対応も検討しているところです。
SNS投稿や報道がヘイトを増幅した
3月には、在日クルド人を中心とする14名(うち法人が2社)が、ジャーナリストの石井孝明氏が行ったSNS投稿により名誉毀損・信用毀損を受けたとして、損害賠償を請求する訴訟を提起した。 2月18日には、右派系団体「日の丸街宣倶楽部」が蕨駅前で「自爆テロを支援するクルド協会は日本に要らない!」と題するデモ行進を行い、それに対して日本人やクルド人などが集まったカウンター・デモが行われた。 同日、石井氏はこのカウンター活動の一部を映した動画を含む投稿を引用リツイートしながら、「おい、クルド人、29秒から「日本人死ね」と言っていないか」と投稿。これは「病院に行け」という発言を聞き間違えたものではないかという指摘も相次いだが、1万4000件以上のリツイートがされた。 この石井氏のツイートが拡散されてから、クルド人に対するヘイトスピーチは目に見えてひどくなった、と温井氏は語る。 温井氏:ネットで在日クルド人のことを検索しても、検索結果にはクルド人に批判的な特定の新聞やジャーナリストの情報ばかりが表示されています。そのため、市外に住む人々は偏った情報だけを受け取り、「クルド人はこわい」という誇張されたイメージを抱いてしまう。 一部の新聞やジャーナリストは、いちど「在日クルド人」に目を付けてからは、彼らを批判する報道を延々と行っています。クルド人と犯罪を結びつけた報道をすることで偏見と相互不信を深め、地域で起きているトラブルの解決を遠ざけ、共生の取り組みを後退させてしまうことが問題です。
弁護士JP編集部