ロシアが仕掛けるフェイクニュース…情報戦の最前線をキーウで取材
■情報統制に立ち入り規制…苦悩するウクライナメディア
一方、私たちはウクライナ公共放送「ススピーリネ」も訪ねた。こうした情報戦のなかで報道を続けているウクライナメディアは、難しい対応を迫られている。というのも、戦況が膠着状態のなか、ウクライナ国防省が発表する報告はより情報統制されているからだ。さらに、報道機関が前線に立ち入ることは軍によって厳しく規制されている。「表に出る情報をコントロールする」…これも情報戦のひとつの側面だが、報道機関として前線の状況を伝えたいというウクライナメディアとしてはもどかしい状況だ。 「ススピーリネ」のプロデューサーは、「公式発表だけでは戦争の現実は伝わらない」「独自の人脈で前線の兵士から映像や情報をもらってニュースを作っている」と話す。実際に反転攻勢の作戦に参加している兵士から、「自分たちのことを知ってほしい」とボディカメラの映像が送られてくることもあるという。
■キーウ取材で目にした「ウクライナ国内で広がる乖離」
さらに、「ススピーリネ」は、激しい攻撃が続くヘルソンやハルキウで、軍と交渉を重ねながらいまも取材を続けている。ただ、実際にハルキウにいる記者に話を聞くと、「ウクライナ軍の居場所が分かるような情報を表に出してしまうと、ロシア軍を利することになってしまうので、慎重にコントロールしている」と話していた。 今回キーウを取材して感じたのは、日常を取り戻し始めたキーウと激しい戦闘が続く前線の「乖離」だ。前線からキーウに戻ってきた兵士は、「命をかけて戦っている兵士のことをみんな忘れてしまっているのではないか」とこぼしていた。「ススピーリネ」もこうした問題意識を持っていて、「最前線の今を伝え続けなければいけない」と何度も強調していた。侵攻が長引けば長引くほど、「ススピーリネ」のような取り組みは重みを増してきそうだ。 また、ロシア側はウクライナの士気を削ぐため、さらに多くのフェイクニュースを作っていくとみられる。現実世界の戦争のみならず、サイバー空間での情報戦にも、ウクライナや、ひいては国際社会が対処できるかどうかが、今後の焦点となる。