「海外のカジノ業者の利益になるだけ」 世界的建築家・山本理顕が明かした「大阪万博批判発言」の真意 「安藤忠雄さんは逃げてはいけない」
施工会社に丸投げ
さらに憂慮すべきなのは、設計共同企業体による「木造リング」の基本設計が完了後、実施設計及び施工、施工監理を一括にして施工会社に丸投げしてしまったことです。現場は3工区(大林組、清水建設、竹中工務店を中心とする共同企業体)に分けて分割発注されましたが、実態としては、設計と施工が同一会社なのは大問題なのです。 端的に言えば、このような複雑に利害がからむ国家的プロジェクトでは好ましくない発注方式だと言えます。設計と施工が一体になれば、設計者側からの工事会社に対する監理が難しくなるからです。設計者による工事金額の精査も難しくなります。 「木造リング」の積算額は誰の責任において計算されたのでしょうか。ゼネコンによる積算額を万博協会はそのままうのみにしたのでしょうか。
今ではほとんど使われていない伝統的な構法
実は「木造リング」の構造計算及び積算業務は極めて難しい作業です。それは設計と施工が一体となってしまった体制だけが原因ではなく、今回の「木造リング」には「貫(ぬき)構造」と呼ばれる日本の伝統的な構法を模したものが採用されているからです。 「貫構造」とはくぎやボルトや金物を一切使わず、柱と梁の接合部をくさびによって固めるだけで、木造構築物を支える工法です。今ではほとんど使われていません。その耐震性に必ずしも信頼がおけないからです。 最近では、SALHAUSという建築設計事務所と、東大准教授で構造家の佐藤淳さんらの協働で、岩手県大船渡市に「貫構造」の消防署建築を完成させています。何度も実験を繰り返し、ようやく信頼のおける構造システムをつくり上げました。伝統的な建物は別として、これまで純粋に「貫構造」で造られた建築は大船渡の消防署以外、私の知る限りありません。「貫構造」は建築基準法上認められた構造システムではないのです。 ゆえに、周長2キロという長いリング状の木造構築物を「貫構造」で造るというのは、構造計算だけでかなりの難題です。地震の時には軟弱地盤と共に全体が波のようにうねるでしょうから、それに耐える構築物の設計は難関なのです。 結局のところ、実施設計と工事を請け負ったゼネコン3社は、「貫構造」でつくることを諦めて、金物で補強する手段を選びました。賢明な判断だったと思われます。本来の「貫構造」だけにこだわっていたら、とても工期には間に合わないし、工事費はもっと増えていたと思われます。