亡き先輩に誓った“覚悟の移籍”…男子バレー高橋健太郎「優勝してまた報告しに行く」愛する家族とも離れて単身赴任「毎日テレビ電話で泣いてる」
「メダルを取らないと、参加賞じゃダメだ」
憧れ続けた舞台に、ようやくたどり着いた喜び。 だからこそ、「でも」と続けた言葉が刺さる。 「オリンピック本番までいろんな人に『おめでとう』と言ってもらって、実際あの舞台に立って感動する。そこがピークでした。やっぱり僕ら、メダルを取れなかったし、結果が出せなかったから、振り返れば出ただけ、で終わっちゃった。出る前はすごくハッピーだったからこそ、メダルを取らないと、参加賞じゃダメだ、ってめちゃくちゃ思いました」 予選ラウンドのドイツ、アルゼンチンとの試合はワンポイントでの出場にとどまったが、アメリカ戦は2セット目のスタートから投入された。組織的なディフェンス、オフェンスを展開する相手に対してもブロックで応戦。1対3で敗れはしたが、セット率の差で8位となり準々決勝進出。大会前にはメダル候補と高い期待を寄せられたこともあり、予選ラウンドの思わぬ苦戦に不安を唱える声もあるのは知っていた。 だが、むしろその“逆境”が高橋を燃えさせた。 「ドイツ戦はすごい数のメディアの人がいたんですけど、(ドイツに負けた後の)アルゼンチン戦は一気に減った。そういうことなんだな、と思いましたね。でもそこで揺さぶられることはなかったし、妻の父から妻宛に『健太郎くんはピンチの時に求められる、土壇場で力を発揮する人だから活躍すると確信している』とメッセージが来て。僕の親父からも『みんなが平常の時は活躍しないけど、誰かがダメな時や窮地の時にお前はチームを救う役割ができる』と言われてきたので、俺が活躍すればメダルを取れる、って思っていました」 しかし、夢は幻に終わった。
「これが最後」代表引退を明言した理由
準々決勝でイタリアに敗れ、日本代表の、そして高橋のパリ五輪が終わった。いつもは対策のために飽きるほど見る試合の映像も、「あの悔しさが蘇るのが嫌だから」と、五輪の試合はまだ見返していない。だから試合の展開や自分のプレー、サーブ後にナイスレシーブで会場を沸かせるシーンもあったが「ほとんど覚えていない」と苦笑いを浮かべる。 はっきりと覚えているのは、試合直後のミックスゾーンで「代表引退」を口走ったこと。ひたすら悔しくて泣き叫び、もうこのメンバーでは二度とできない、という現実に感傷的になった。 「もうやり切ったと思ったから、その時は『もう僕はこれが最後』と言ったんです。でもロッカールームに戻ったら、やっぱりメダル欲しいな、って。もう代表で10年やったからいいだろ、十分だろ、と思う気持ちと、やり返したい、メダル取りたい、という気持ちが混ざって先走ったなぁ、と思っていたら、帰りのバスの中で『健太郎さん、代表引退明言って記事になってるよ』って(笑)。いやもう一回オリンピック行きたいわ、やりたいわ、って騒いでいたら(石川)祐希から『やるっしょ、いいじゃん、もう一回やるって言いなよ』ってからかわれました。また4年間やるのはそんなに簡単じゃないですけど、やり切った、という思いを撤回したいぐらいまた代表でやりたくなる時も来るのかな。今はもう落ち着いたんでリーグのことしか考えてないですけどね」 日本代表からSVリーグにスイッチを切り替えるために、束の間のオフを家族と過ごすことも大切だったが、高橋がそれ以上に「帰ったらすぐ行くと決めていた」と明かしたのが、宮城県石巻市だった。元日本代表で、東レでも共にプレーした藤井直伸が眠る場所だ。 大会中も「練習中に藤井さんの存在、匂いを感じていた」。これまでと変わらず共に戦う――その思いに変わりはなく、パリのコートで最後に撮影した集合写真には藤井の写真を持つ高橋の姿がある。 藤井にはパリ五輪を無事戦い終えたことに加えて、もう一つ、報告しなければならないことがあった。 「移籍です。プロになるのはいいけど、藤井さんは『俺が戻るまで待ってろよ』とチームを出ることは許してくれなかった。でも僕は優勝したいし、ひとつ上のステージに立ちたいと思ったからプロになって、移籍を決めた。実際、関田さんとコンビを合わせる中でいろんな発見もしているんですけど、藤井さんからはたぶん今も『(チームを)出るなって言ったろ』と言われそうだから、勝って『リーグ優勝しました』って報告しに行きたい。優勝して、俺が選んだ道が正解だったでしょ、って言いたいから、頑張らないといけないんですよ」
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