なぜ日本のITエンジニアは輝けないのか? 憧れ、マーケット、そして待遇
日本のITエンジニアが直面している“待遇格差”
一方、日本のITエンジニアの環境を巡っては、待遇面での海外との違いも大きいのではないかというのが、筆者の見方です。つまり、日本企業における人材への投資規模が海外と比べて小さく、日本のITエンジニアは海外のITエンジニアと比較して儲からないという問題です。 「企業の富のトリクルダウンが日本では起きにくい。人材にかける投資額では、Google、Amazon、ファーウェイなどの規模には到底及ばない。そこで日本と世界で差が生まれてしまうのではないか」という筆者の質問に、谷家さんも「その通りだ」と答えています。 冒頭に紹介した経済産業省「IT人材に関する各国比較調査結果報告書」によると、日本のIT人材の平均年収は約600万円。日本の全産業平均年収の約2倍とされています。 しかし一方で、米国は日本と同じ全産業平均年収の約2倍ながら、IT人材の平均年収額は約1200万円。中国は企業規模の大小差が大きいことからIT人材の平均年収額は約400万円と日本より低いですが、その額は全産業平均年収の約7倍となっています。加えて、給与・報酬に対する満足度は海外と比較して日本が低いのも印象的です。 中国では昨年、ファーウェイが日本法人のエンジニア初任給を月40万円に設定して話題になりましたが、GoogleやAmazonなどグローバル展開している企業では世界的な人材獲得競争が発生しており、新卒社員に対して数千万円の年収を投資してでも優秀な人材を確保している企業は少なくありません。グローバルな市場競争を勝ち抜くためには、イノベーションを生み出す原動力となる優秀な人材を何としてでも確保したいという必死さがうかがえます。 では、同じように日本でも人材への投資が進めば優秀なエンジニア人材が活躍できる社会が生まれるのではないか。そう考えたいところですが、そこには日本のエンジニアを巡るもうひとつの課題があるといいます。谷家さんと共に発表会に出席したLONGHASH代表取締役社長のクリス・ダイさんは、次のように語っています。 「日本の企業社会では、エンジニアは“黒子”のような存在。どちらかというと職人に近く、華やかな仕事ではない。一方、米国や中国では、ベンチャー企業を立ち上げる起業家のほとんどはエンジニアで、彼らはビジネスも理解できて資金も獲得できる。そして、彼らが成功を築いて社会のモデル=憧れになることで、他のエンジニアやエンジニアを目指す人のモチベーションを掻き立てる。日本のエンジニアはビジネスの表舞台に立てず、暗い印象がある。社会における格差が顕著なのではないか」(クリス・ダイさん)。