なぜ日本のITエンジニアは輝けないのか? 憧れ、マーケット、そして待遇
これは、Appleを例にとるとよくわかります。Appleが定期的に行う製品発表会でプレゼンテーションするのは、そのほとんどがエンジニアやデザイナー。自らが考案した新しい製品やサービスを、自信を持って紹介している姿が印象的です。そして何より、Appleの創業者である故スティーブ・ジョブズやスティーブ・ウォズニアックは、自ら独自規格のパーソナルコンピュータを考案して新たな市場を生み出した天才エンジニアでした。そのAppleがスマートフォンで世界を席巻したことで、世界中のテクノロジー企業とそこでイノベーションの創出に挑むエンジニアたちが、Appleの成功に追随しようと切磋琢磨しています。 他方、クリスさんのコメントの通り、日本のシステムエンジニアやプログラマーは、開発の依頼者によって決められた要件を決められた通りに形にすることを主な仕事とする“作業員”であるという印象は否定できません。 もちろん、日本国内でも業界上位のテクノロジー企業では、開発チームが自ら考え、形として生み出してビジネスを牽引するという社風がありますが、それはほんの一部にすぎません。アイデアを考えて形にすることができる独創性やスキルがあっても、そのクリエイティビティを自らビジネスにすることがなかなかできない。ビジネスを企画・推進する立場の社員の指示通りに動かなくてはならないという閉塞感が、日本のエンジニアを巡る大きな問題なのではないでしょうか。 海外の優れた人材の流入、期待できるマーケット規模、そしてエンジニアの環境を巡る待遇格差。“日本からGoogleやAppleのようなイノベーティブな企業を生み出したい”というのはIT業界における長年の夢ですが、その夢を実現するためには越えていくべき大きな課題が立ちはだかっているのです。 (取材・執筆:井口裕右/オフィス ライトフォーワン)