辰吉と伝説世界戦の薬師寺ジムから開設10年目で初の新人王。その名は森武蔵
プロボクシングの東西新人王が激突する第64回全日本新人王決定戦が23日、東京・後楽園ホールで12階級にわたって行われ、注目のKOボクサー対決となったスーパーフェザー級は、西軍の森武蔵(18、薬師寺)が、ジロリアン陸(29、フラッシュ赤羽)に3-0で判定勝利して技能賞を獲得した。ジムの会長は、あの辰吉丈一郎との伝説の統一戦に勝った元WBC世界王者の薬師寺保栄(49)で、ジム開設10年目にして初の新人王の輩出となった。 なお大会MVPには、東軍のMVP男である飯見嵐(21、ワタナベ)を4回51秒TKOで下したスーパーバンタム級の下町俊貴(21、グリーンツダ)。敢闘賞には、ライト級の激戦を制して2回1分58秒KO勝利した東軍の有岡康輔(24、三迫)。
その名は武蔵。本名である。 同じ名の気の優しいK-1王者がいたが、父の森伸二さん(39)は、「特にマニアというわけではありませんが、剣豪・宮本武蔵にあやかりました。かっこいいじゃないですか?」という。出身は熊本。宮本武蔵が、その波乱万丈の生涯を終えた地である。何やら奥深い理由があるのかと思いきや、結構軽いノリでの命名である。ただ、親子は子供の頃から「格闘技世界一」を目指していた。名は体を表す。 注目のカードだった。 森武蔵は4戦4勝4KOで西軍代表決定戦のMVP。一方のラーメン二郎の大ファンであり副業がマジシャンのジロリアン陸もデビュー戦でお笑い芸人に黒星を喫して以降、8勝8KOで東日本の敢闘賞。 1ラウンドは互いに警戒しあった。コンタクトは数度。青コーナーに戻った森武蔵に薬師寺会長が問う。 「パンチはどうだ?」 「全然ないっす」 森武蔵は、サウスポースタイルからのスピーディーなワンツーが武器のように見えたが、ジロリアンの一発を意識して、右のフックと、左のボディアッパーをカウンターとして忍ばせていた。それがわかるからジロリアンも下手に手出しをできない。ジリジリとしたペースの探り合いである。 3ラウンド。もつれる展開の中で、森武蔵のパンチがジロリアンの後頭部に入った。ジロリアンが頭を抱えてアピール。ニュートラルコーナーに下がって試合が中断するアクシデント。 再開と同時に森武蔵がカウンターの右フックをひっかけると、つんのめるようにしてジロリアンはダウンした。スリップ気味の微妙なダウンだったが、タイミングからすれば、レフェリーがカウントを取るのも仕方がなかった。起き上がったジロリアンは意地の右を伸ばす。浅かったが、森は鼻からかすかに流血。それでも、試合後、「8オンスのグローブでハードパンチャーのパンチってどんなもんか知って良かった」と嘯いた。 スピードと一発の緊迫感のある攻防は、注目カードにふさわしかった。 最終ラウンドとなる5ラウンド。 「採点ではダウンもあって勝っているのはわかっていたけれど、ボクシングってやっぱりエンターテイメントじゃないですか? 盛り上がりが必要かなと」 恐るべし18歳。フラッシュを浴びせるかのような鋭いステップインからのワンツーでジロリアンをコーナーに追い込んだ。結局、詰めきれずにKO決着とはならなかったが、ジャッジの一人がフルマークをつける3-0判定で、一生に一度のタイトルを手にした。 さらに恐るべしは、その左拳の靭帯が3本も切れていたこと。試合後、テーピングを外すと、中指の拳付近がまだドス黒く変色していた。西軍代表決定戦の前にスパーリングで痛めたというが、痛めたまま、西軍MVPとなり、スパーリングをほとんどできないまま、この試合を迎えたというのである。