山形市が掲げる「日本一の観光案内所」構想 訪日客割合「2%」のまちで新たな誘客施設に 深層リポート
「日本一の観光案内所」-。そんなキャッチコピーを聞いたら、「見たい、行きたい」と思うのが人情だろう。ただ、規模感、コンテンツ、箱もの、エンターテインメント…何を指しているのか。そんな大胆な構想を、山形市がぶち上げた。地方都市が抱える厳しい現状を抜け出す起死回生の一手になるのか、その真意を探ってみた。 【写真】JR山形駅のペデストリアンデッキから見た「日本一の観光案内所」予定地の駐車場 ■閑散期対応がカギ 「日本一の観光案内所」構想は新しいようで、そうでもない。佐藤孝弘市長が初当選を果たした平成27年の市長選で掲げた、いわば〝一丁目一番地〟の公約だ。それが約10年の時をへて、本格的に動き出した。 山形県は、さくらんぼやラ・フランスといった高級果実の栽培が盛んで「フルーツ王国」と呼ばれ、「つや姫」「雪若丸」といった特産米でも知られる。山形市も蔵王、山寺といった全国区の観光地のほか、城下町、紅花商人を礎とした歴史・文化を誇る。ただ、それが「お金を落とす」交流人口につながっているかといえば、現実は違う。 新型コロナウイルスの5類移行と円安で訪日客は増加傾向にあり、令和5年の観光消費額は全国で5兆円を超え、過去最高を記録した。しかし、山形市の場合、訪日外国人は観光客全体の2%にとどまる。 蔵王や山寺も季節によって観光客数に大きな差があり、閑散期の誘客がポイント。また、観光地だけでなく、山形市内を観光客が回遊するコンテンツや情報発信が必要になってくる。「帯に短し、たすきに長し」にくさびを打ち込むのが、「日本一」なのかもしれない。 ■8つのテーマで目指す 市はJR山形駅(改札エリア、東西自由通路エリア)と、東口のペデストリアンデッキでつながる旧ビブレ跡地に建設する施設を一体化した観光案内所を描く。5者の地権者がいる跡地について、佐藤市長は「(譲渡に向け)最終合意に近づいている」と話しており、ハード部門のハードルは越えつつある。 観光案内所は、観光客以外が訪れることはないし、近所の住民も立ち寄ることはほぼない。そんな状況を打開するため、慶応大とJR東日本、市は今年3月、「日本一の案内所」素案をまとめ、8つの「日本一」を掲げた。①地域の魅力を体感できる②温泉に行きたくなる③長く滞在したくなる④地元を再発見できる⑤文化創造をチャレンジできる⑥次世代の観光づくり⑦わくわく働く⑧つながる-「日本一」だ。 具体的な施策はこれからだが、推進する山形市観光戦略課の桜井隆弘さんは「さまざまなテーマで日本一を目指し続けることで、『日本一の観光案内所』を実現したい」と話す。人によって興味・関心が異なるなか、歴史好きには歴史を、美食家には食をしっかりと伝えられることが、「日本一」の要素になるという。