世界経済の中期見通し②:労働が成長の制約に
労働力の成長寄与は趨勢的に低下
前稿(コラム「世界経済の中期見通し①:中国経済が世界経済の重石に」、2024年4月25日)では、世界の中期成長率見通しに与える中国経済の影響について検討したが、本稿では、成長率のトレンドに影響を与える要因の一つである労働の投入について、考えてみたい。 世界の実質GDP成長率のトレンドは、2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)を境に低下傾向を辿っている。中期成長率を要因分解すると、2001年~2007年の年間平均実質GDP成長率は+4.2%だったが、リーマンショック後の2008年~2019年の年間平均実質GDP成長率は+3.2%と0.91%ポイントも低下した(図表1)。
この成長率の低下に最も大きな影響を与えたのが、技術進歩、労働者の質向上、資本・労働の効率的な組み合わせなどに左右される生産性を示す全要素生産性(TFP)の成長寄与度低下である。それは0.91%ポイントの成長率低下のうち、0.94%ポイントの押し下げ要因となった。 リーマンショック後の金融機能の低下が、生産性の高い分野への資本、労働の移転を妨げる結果となった可能性が考えられる。また、リーマンショック後の経済の急激な悪化を受けて、政府の経済政策が景気刺激、企業や家計の支援に割かれる中、適切な産業政策の優先順位が落ち、それが生産性上昇率の低下につながった可能性も考えられるだろう。 また、2020年~2023年の年間平均実質GDP成長率は+2.5%と、2008年~2019年からさらに0.74%ポイント低下した。この期間は、新型コロナウイルス問題の影響を強く受けており、また期間が短い点も考慮する必要がある。そのうえで、成長率の低下に最も大きく影響したのは、資本ストックの寄与だ。それは-0.6%程度である。 リーマンショック後の成長率低下で、企業が将来の成長期待を低下させたことや、新型コロナウイルス問題の影響で先行きの経済環境の不確実性が高まったことから、企業が設備投資を抑制したことが背景にあると推察される。