世界経済の中期見通し②:労働が成長の制約に
労働供給は一貫して世界の成長率の押し下げ要因
ところで、過去四半世紀にわたって、一貫して世界の成長率を押し下げてきたのは労働供給の変化だ。背景には、各国で進む高齢化や人口増加率の低下、あるいは人口減少がある。 1995年から2000年には、労働供給は世界の年間成長率を+0.8%押し上げていた。しかし、2001年から2007年には+0.7%、2008年から2019年には+0.5%、2020年から2023年には+0.4%と、この間に成長寄与は半減している(図表1)。 人口増加率の低下などの人口動態変化は、企業の将来の成長期待にも影響を与える。成長期待が低下すれば企業が能力増強目的の設備投資を抑制し、資本ストックの増加率の低下が実際に成長率を低下させてしまう。従って、2020年~2023年の資本ストック増加率の成長寄与の低下には、人口動態変化の影響も含まれていると考えられる。
国際通貨基金(IMF)は、2024年から5年先までの雇用者数の増加率(年平均)を地域別に予測している。低所得国では雇用者数は年平均+2.1%と高い増加率が維持される見通しだ。雇用増加率は、低所得国が最も高い一方、新興国、先進国と一人当たりの所得水準が高まるに従い、低下する傾向がみられる。そうした中、例外的な見通しとなっているのが米国と中国だ。 米国と欧州連合(EU)を除いた先進国の雇用増加率見通しが-0.1%であるのに対して、米国は+0.5%とかなり高めである。ちなみにEUは-0.5%だ。移民の流入が続く米国は、それによって高い雇用増加率と高い成長率が維持される見通しとなっている(図表2)。
中国では女性の労働参加率低下が成長の足かせに
一方で中国は、雇用者増加率の見通しは-0.6%とかなり低くなっている。15歳以上の生産年齢人口は増加を続ける見通しである一方、生産年齢人口に占める雇用者と失業者の割合、つまり労働参加率が大きく低下し、それが雇用者数を減少させる見通しとなっている。 中国での労働参加率の低下は、主に女性において生じるとみられる。世界銀行によると、中国での女性の労働参加率は、2019年に60.6%と世界平均の40%台後半と比べてかなり高い。中国では男女の平等が、憲法や労働法で明確に規定されている。政府も男女平等を重要なイデオロギーとして強調し、雇用均等などの関連政策を推進してきた。これが、女性の労働参加率が他国と比べてかなり高い理由だった。 しかし、2000年に中国の女性の労働参加率は70%程度であったことから、20年程度の間に10%も低下したことになる。これは、中国が計画経済から市場経済に移行する中で生じたものと考えられる。国有企業の改革による雇用形態の変化、国による新卒の学生に対する就職先決定の制度廃止、進学率の上昇などの影響が大きいだろう。 簡単に言えば、中国が先進国に近づいていく過程で、女性の労働参加率の低下が生じ、それが先行きの成長率の見通しに大きな逆風となっている。 移民や外国人材の受け入れに制限がある中国では、女性や高齢者の労働参加率を引き上げる施策を講じないと、成長率の急速な低下に歯止めをかけることは難しいだろう。