世界経済の中期見通し②:労働が成長の制約に
人口オーナスが中期成長率を低下させる
中期成長率を大きく左右する人口動態要因の中で、人口増加率や既に見た労働参加率に加えて注目したいのが、「生産年齢人口比率」だ。生産年齢人口比率は、総人口に占める生産年齢人口(16歳~64歳)の比率であるが、これが低下していくと、より少ない働き手(生産年齢人口)が、高齢者や子供など働かない人(従属人口)を支える傾向が強まるため、年金などの財政支出が増大する。また現役世代の大きな負担となり,経済成長も阻害される。こうした状態は「人口オーナス」とも呼ばれる。 主要国の中でこの比率の低下が早くに訪れたのが、欧州大陸の国だ。ドイツでは1986年、フランスでは1989年にピークをつけ、低下に転じた。それにやや遅れたのが日本の1991年だ(図表3)。 次の大きな山は2000年に入ってからとなる。米国、英国ではいずれも2007年に同比率がピークをつけて低下に転じた。そして中国では2007年に同比率がピークをつけた。 「生産年齢人口比率」がピークをつけるタイミングは、各国で大きなばらつきが見られたが、その後の低下ペースも様々だ。ピークから10年の期間で見ると、米国、ドイツ、フランス、ブラジルでの低下ペースは比較的緩やかであったが、それと比べると、日本と英国での低下ペースは速く、「人口オーナス」の逆風は強い。 ただしそれ以上に急速に比率が低下し、強い「人口オーナス」に陥っているのが中国だ。中国では総人口に占める生産年齢人口の比率が2009年に低下に転じたのに加えて、2022年に人口が減少に転じた。そして、生産年齢人口に占める雇用者と失業者の比率、つまり労働参加率も急速に低下している。いわば、人口動態の面では3つの逆風に同時に見舞われているのが中国なのである。 この結果、中国はまさに世界経済の中期成長率の低下を主導していると言えるだろう。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英