監視、嫌がらせ、吊し上げ――自分の「正義」が暴走する「自粛ポリス」の心理
デマという「情報ウイルス」
今年のゴールデンウイーク中に放送された「サザエさん」(フジテレビ系)に、家族でレジャーに出かけるシーンがあった。それが「不謹慎だ」と「炎上」したという一部報道があった。実際には、せいぜい「ボヤ」以下だったのだが、こうした一部メディアの大袈裟な「炎上」報道が、本物の炎上を呼ぶ危険性も指摘されている。ネット上の自粛ポリスと、それに便乗するマスコミ。この構図について、SNSコミュニケーションに精通するブロガーの徳力基彦さんはこう分析する。 「テレビの場合は、視聴者が数百万人の単位。そのうちツイートする人が仮に1%だとして、そのうちの1/10がネガティブな投稿をしたら、数千件はネガティブな投稿が出る。メディアからすると、『これはまとめれば炎上に見えなくもない』っていう状況が、実は毎日起こっています。ただ、それを炎上と呼んでいたらキリがない。マスメディアの世の中の取り上げ方もポイントです。発信をしている人間のレベルアップが求められていると思うんです」
出来事を伝えようとするとき、どうしても伝える人のバイアスがかかる。ネットを素材に、賛否両論の出来事を都合よく加工しやすい時代になっている、と徳力さんは言う。 「毎日ネガティブなニュースの爆撃を受け続けていたら、どんなに精神的に健全な人でも、やっぱりメンタルがやられると思うんですよ。特にコロナ禍の現在、たいして炎上していないのに『炎上』と書くのは、今はやめませんか、と言いたいですね」 背景には、日本でのメディアリテラシー教育の遅れがある、と徳力さんは指摘する。 「メディアリテラシー教育では、『メディアの報道は間違う可能性がある』という前提を基本とします。ただ、日本はメディアが正しいのが前提になっている人が多く、間違った報道を信じてしまいがち。当然、個人でも間違った情報を発信することがあるわけです。去年、常磐自動車道での煽り運転事件のとき、『犯人と同乗していた』と別の人の名前がネットで書かれてしまったように。リツイートですら、責任ある行為だと認識しなきゃいけないんです」 ついつい、目にした情報を是としてLINEで知人に回してしまったり、ツイッターの情報も気軽にリツイートしてしまうものだ。 「『正義感』なんですよね。いい話を聞いたから教えてあげようっていう、その行為自体は正しいと思うんですよ。でも、『情報ウイルス』にも人間は犯されやすくなっているんですよね。情報リテラシーが低いから、デマに感染するとすぐに広めてしまう」 それを防ぐためのリーダーシップを、政治や企業がとるべきだと徳力さんは語る。 「自粛ポリスとして活動する正義感があるなら、その力を本当に困っている人を救うことに使う方法を彼らに提示してあげるべきだと思います。『何かやりたい』というエネルギーの向け方が何も提示されずに、『Stay Home』だけになっちゃうと、持て余す人がいるのはある意味当然。自粛ポリスのエネルギーをいい方に使えるように、困っている人と自粛ポリス的な人を、インターネットの力でつなげることはできると思います」 緊急事態宣言は5月末まで延長され、政府の専門家会議が提示した「新しい生活様式」という言葉が話題を呼んでいる。今は新しい常識を作ろうとしている時間なのだ、と碓井さんは言う。 「以前は『列は詰めてください』が常識でした。今は、『少し距離をあけましょう』となってきている。でも、何が正しいマナーなのか、まだみんながよくわかっていない。みんな自分は正しいと思っていますから。でも、携帯電話のマナーのように、新しい常識が確立されていくはずです。それまでは、まずは意識できる人たちから、共感的なコミュニケーションを積み重ねていくことが大切だと思います」