夫の死後、電気・ガスまで止められた“孤独な81歳妻”に追い打ちをかけた「税務調査に伺います」の知らせ…不安にかられるも一転、「ありがとう」と感謝したワケ【税理士が解説】
水道光熱費が引き落とされず、電気がつかない…
澄江さんは、これまで宏さんから月々決まった生活費を現金でもらい、日々の暮らしに充ててきました。そのため、毎月生活費をくれる宏さんがいなくなると不安な日々を送るようになりました。澄江さん自身の年金と銀行預金は乏しいものだからです。 それから1年が過ぎた頃、澄江さんはついに宏さんの預金をおろすことを決意しました。しかし、宏さんの銀行預金についてはカードの在り処も暗証番号も知りません。そこで通帳を持って銀行へ行き、「夫が亡くなったので、このお金をおろしたい」と相談しました。 銀行では相続の手続きをとるようにと数冊の冊子を渡されましたが、澄江さんにはそうした手続きがよく分からず、結局宏さんの預金をおろすのをあきらめました。 すると、その出来事があった翌月から水道光熱費の通知書が何通も届くようになりました。澄江さんは目が悪く、通知書をよく読む気力もなかったため、少し読んでみても何を言われているのか分からず、そのまま放置してしまいました。 すると翌々月、電気がつかなくなってしまったのです。なぜ、電気がつかなくなったのか? 澄江さんは途方にくれました。実は、複数届いていた水道光熱費の通知書は、口座振替ができなくなったという知らせだったのです。 では、なぜ口座振替ができなくなったのでしょう? それは、銀行は預金者の死を知った時点で、口座を凍結するようになっているからです。あの日、澄江さんが銀行で宏さんの死を伝えたため、銀行は宏さんの口座を凍結したのでした。 しかし、このような状況になっても、澄江さんは誰かに相談することも思い浮かびませんでした。
税務署から「税務調査をしたい」と連絡が…
電気が止まり、やがてガスが止まるなか、季節は初冬を迎えました。澄江さんの生活は、暗くて寒い自宅のなか、自身の乏しい年金と預金のみを頼りとする、厳しいものでした。 そんなある日、澄江さんのもとへ税務署から手紙が届きました。そこには「宏さんの相続税が申告されていないようなので、税務調査に伺いたい」と書いてありました。電話がつながらないので手紙を送りました、とも。その頃には、澄江さんの家は電話も止まっていたのです。 手紙を読んで、澄江さんは心底驚きました。宏さんの死にあたって、葬儀も出したし年金も止めたし、やるべきことはきちんとしたつもりで、税金の申告など頭の片隅にもなかったからです。 不安でいっぱいになった澄江さんは、藁にもすがる思いで古新聞に載っていた税理士事務所へ電話をかけました。澄江さんの依頼を受け、税理士は代理人として税務署と対応することとなりました。 税務署によれば、澄江さんの自宅は大きく、相続税評価額で1億5,000万円は下らないため、それだけでも相続税の申告義務があるとのこと。 そして、澄江さんは初めて相談できる相手が見つかったとばかりに、税理士に対して、ここ数ヵ月どれだけひどい生活を送ってきたか窮状を訴えました。 「こんなに寒くなったのに、暖房だってつかないのよ! 夜は暗いなか手探りで……」 その後、税理士は戸籍の収集をして宏さんの兄弟と連絡をとり、同時に自宅にきていた郵便物から銀行や証券会社とやりとりし、残高証明書を集めました。 その結果、銀行預金が総額2億円、証券会社に1億円もの財産があったことが判明しました。宏さんは多数の金融機関に財産を分けており、各金融機関では大口顧客として認識されていませんでした。そうした事情もあり、宏さんの死亡を金融機関が把握するのが遅れたようです。 宏さんの兄弟とは、遺産についてはすべて澄江さんが相続する旨の遺産分割協議書を交わすことができました。金融機関の手続きも滞りなく進み、ほどなくして宏さんの全財産を澄江さんの銀行口座へ振り込むことができました。もちろん公共料金等の自動振替手続きも済ませました。 当初、税務調査の連絡に脅えていた澄江さんでしたが、結果として、それをきっかけに正常な生活を取り戻すことができたわけです。澄江さんは「税務調査が入ることになってよかった。ありがとうございます」そう感謝したのでした。