漫画家のあだち充さんの兄、勉さんの半生が漫画に……お酒が好きで多くの人に愛された
漫画家のあだち充さんの兄で、ギャグ漫画で活躍したあだち勉さんの半生をたどる『あだち勉物語 あだち充を漫画家にした男』(小学館)が完結した。弟子のありま猛(たけし)さんが、多くの人に愛された勉さんの姿を温かなタッチで描いた。1970年代の漫画に命をかけた若者たちの青春群像劇にもなっている。(池田創)
あだち勉さんは巨人軍のダメ選手がレギュラーを目指すドタバタ作品「タマガワ君」などで知られ、ギャグ漫画の巨匠、赤塚不二夫さんのチーフアシスタントを務めた。充さんを漫画の世界に誘った張本人で、赤塚さんの全盛期を支え、型破りな振る舞いと人なつっこさで知られた存在だった。ありまさんは「面倒見の良い親分みたいな、アニキみたいな存在だった」と語る。
ありまさんは児童養護施設で育ち、16歳で勉さんの仕事場を訪れ、弟子入りを志願した。「断られるかと思ったら、『一発やってみっか!』と言われてね。本当にうれしかった」。しばらくした後、勉さんの紹介で『BARレモン・ハート』の古谷三敏さんの仕事場に移り修業を積んだ。
独立後は『船宿 大漁丸』など柔らかなタッチで市井の人々を描く作風を得意とし、90年代に手がけたパチンコにのめり込む人々を描く『連ちゃんパパ』が近年SNSで再注目されたことも話題になった。同作の主人公のモデルは勉さんで、『あだち勉物語』は弟の充さんの許可と協力を得て、小学館の漫画アプリ「サンデーうぇぶり」で2020年に連載が始まった。
勉さんは酒好きのお調子者で、麻雀(マージャン)やパチンコなど大のギャンブル好きだった。不摂生な生活を送りながら、漫画雑誌をくまなく読み、時折ハッとするような指摘を後輩の漫画家たちに投げかけていた。作中には赤塚門下で『釣りバカ日誌』の北見けんいちさん、『総務部総務課 山口六平太』の高井研一郎さんのほか、各雑誌の編集者も実名で登場する。「あの時代は漫画家の先生と机を並べて一緒に仕事をして、自然と会話の中で勉強になることも多かった」