口開く化学兵器の被害者ら「やっと真実話せる」 激戦地ドゥマ、アサド政権と露が偽証強要
【ダマスカス=大内清】シリア内戦で崩壊したアサド政権は、国際的に禁じられた化学兵器を戦闘や住民の弾圧に使用した。独裁体制の重しが消えたいま、口を閉ざしてきた人々が実態を語り始めている。 【写真】2018年に化学兵器が投下されたシリア首都ダマスカス近郊ドゥマの現場。人口密度が高く、多数の犠牲者が出た 2018年4月7日、首都ダマスカス近郊ドゥマの人口密集地で数百人が目やのどの痛み、嘔吐(おうと)などの症状に襲われた。数十人が死亡したとの情報が流れ、化学兵器使用が疑われた。アサド政権は13年の化学兵器使用禁止機関(OPCW)加盟後も禁止兵器を保有・使用しているとみられてきたためだ。 ■一目でわかった化学兵器使用 政権を支援するロシア政府は19日後の4月26日、OPCW本部があるオランダ・ハーグで記者会見を開き、シリアから連れられてきた〝証人〟たちをカメラの前に立たせた。彼らは「化学兵器の攻撃ではないと思う」と口をそろえた-。 「あれはアサド政権に脅されてついた噓でした」 約6年8カ月後の現在、証言者の一人だったアブドルラフマン・ヒジャジさん(39)はこう語る。 あの日、現場近くの診療所に居合わせたヒジャジさんは、次々と運ばれてくる住人らに水をかけ続けた。浴びた薬剤を洗い流すためだ。多くが黄色っぽい泡を口から吹き出しながら亡くなった。「一目で化学兵器だと分かった」という。 直後にヒジャジさんは情報機関に拘束され、「『爆発の粉塵(ふんじん)を吸い込んだことが原因だった』と言え」と迫られた。さもなければ「家族は生かしておかない」と。「拒否することなんてできなかった」。 ■逆らえば投獄や拷問の恐怖 化学兵器が投下された集合住宅に住んでいたオマル・ディアブさん(42)や妻ロウアさん(34)、長男ハサンさん(17)らの一家5人も証言者としてハーグへ連れていかれた。症状が比較的軽かったことや、当時11歳のハサンさんがネット上に拡散された診療所内の動画に映り込んでいたことが選ばれた理由だったとみられる。 情報機関に逆らえば、投獄されたり拷問を受けたりすることはシリア人なら誰でも知っている。一家にも、指示通りの発言をする以外の選択肢はなかった。ハーグに同行した「通訳」は、情報機関の士官だった。