口開く化学兵器の被害者ら「やっと真実話せる」 激戦地ドゥマ、アサド政権と露が偽証強要
ダマスカスの北東約10キロにあるドゥマは、11年に起きた民主化要求デモの当初から反政府運動の中心となった場所だ。内戦では激戦地となり、市街地が破壊された。18年の化学兵器攻撃は、政権側が武装勢力にドゥマ周辺からの退去を迫る中で行われたものだ。
OPCWは23年1月に公表した報告書で、現場で採取されたサンプルや独自に集めた証言の分析などから、政権軍がヘリコプターから投下した容器から塩素ガスを拡散させたものだったと断定。少なくとも43人が死亡したと結論付けた。ヒジャジさんは「死者は80人以上はいた」と語る。
■「調査のやり直しを」
だがアサド政権は化学兵器使用を否定。攻撃は米英仏の支援を受けた勢力によるものだなどとも主張した。ヒジャジさんは「私たちの証言は政権の噓やロシアのプロパガンダ(政治宣伝)に利用された」と語る。
そのアサド政権が崩壊したことで、住民たちは「やっと本当のことが言えるようになった」(ディアブさん)。
それでも妻のロウアさんは「心の中の痛みは消えない。あの日のことは忘れられない」と目を伏せる。「『何で本当のことを言わなかったんだ』と(周囲に)責められるのではないか」との心配は消えず、呼吸が苦しくなることもあるという。
国際NGO「シリア人権ネットワーク」は、アサド政権による化学兵器の使用は220回を超え、全体で少なくとも1500人以上が死亡したと指摘。暫定政府を主導する「シリア解放機構」(HTS)は、ロシアへ亡命したアサド前大統領や元政権幹部らによる市民への残虐行為を徹底的に追及するとしている。
ディアブさんたちは「世界に本当のことを知ってもらうために調査をやり直してほしい。今度こそちゃんと証言したい」と願っている。