ウマ辛で人気の担々麺、「本家の味」誕生の秘密 汁なし・伝説シェフのまかないも紹介
■陳建民のまかない料理だった「汁なし」
2番目の「建民担々麺」にはほほ笑ましいエピソードがある。汁ありの担々麺を人気メニューに育て上げた建民さんだが、やっぱり生まれ故郷の汁なしが好きだった。同じ芝麻醤とラー油をベースにした特製タレを作り、スープはごく少量に抑え、自分のまかない料理としていつも食べていたのがこの一品だ。 なお、どの担々麺も、麺はかん水を使わずに打った卵入り麺を使う。コシはあるが口あたりがやわらかく、伸びるのが早いが、そのぶんタレや汁の味をよく含んでくれる。常連が「担々麺はこの麺でなきゃ」と口をそろえる相性である。 夏の一番暑い時期に期間限定で登場する冷製の担々麺にも、この麺はよく合う。冷製には決まったパターンはなく、毎回違うレシピで作るが、特に好評だったのが「豆乳冷やし担々麺」だという。
■正統派の「汁なし」、山椒の香りと辛さ
3番目の「正宗担々麺」は本場・四川の原型に近い汁なしスタイルだ。原型といっても四川省を代表する麺料理だけあって、町によっても店によってもタレの味はさまざまで、それぞれに個性的。共通するのは、器にタレを敷いてゆでた麺をのせ、牛または豚、羊のひき肉を炒めたものと青みの野菜をトッピングすることである。 タレは中国しょうゆに芽菜(ヤーツァイ)、搾菜(ザーサイ)、梅乾菜(メーガンツァイ)などの漬物類、ニンニク、赤トウガラシ、ラー油、砂糖が主材料。芝麻醤は入ったり入らなかったりで、建民さんのようにたっぷり加えるレシピは多くない。 この正宗担々麺も、芝麻醤の存在感は汁ありより控えめ。甘酸っぱいタレには山椒の香りと辛さが利いている。濃厚さとシャープな切れ味を求めるなら、一番のおすすめだ。ご当地フードで「広島汁なし担々麺」が注目されるなど、汁なしタイプもじわじわとファンを増やしている今日、基準になる味として、ぜひ試しておきたい一品である。
■元祖バンバンジー、冷やしそばで
担々麺以外にも元祖が味わえる麺料理があるので、あわせて紹介しよう。いまでは家庭料理にも定着したバンバンジーも、建民さんが日本人の舌に合うようにアレンジして広めた四川料理の一つ。現地では中国しょうゆがベースのスパイシーなソースを用いるところ、担々麺と同様、芝麻醤ベースのピリ辛ソースに変えた。いまでは市販の家庭用バンバンジーソースも、ほとんどがゴマ味だ。 「バンバンジー冷やしそば」は、ゆでたてを冷水できゅっと締めた卵麺に、しっとり火入れした鶏肉の細切り、きゅうり、トマト、クラゲを彩りよく並べ、バンバンジーソースをたっぷりとのせた一皿。喉越しがとてもよく、冬でも食事の締めにもってこいだ。グランドメニューの定番として、一年中いつでも食べられる。