ウマ辛で人気の担々麺、「本家の味」誕生の秘密 汁なし・伝説シェフのまかないも紹介
連載《グルメモード》
ようやく季節の変わり目。まだ「残暑」が続く地域がある一方、過ごしやすい「残暑後」に移ったところも。どちらの季節感にもぴったりなのが刺激的に辛い担々麺だ。かつて夏の風物詩だった冷やし中華が今は春から提供されるようになり、タレの主流は甘酢からこってりしたゴマダレに変わって最近はさらに濃厚な冷やし担々麺がブームになっている。 【写真はこちら】目でもウマい! 建民担々麺、正宗担々麺、バンバンジー冷やしそば…全部チェック! どのようにして担々麺は、これほど愛されるようになったのか。日本での担々麺の本家である「四川飯店」のメニューからひもといてみよう。
■「日本人はみそ汁が好き」の一言から始まった
赤坂店(東京・千代田)のグランドメニューを開くと、担々麺だけで3種類が並ぶ。トップを飾るのが英文で「オリジナル・タンタン・ヌードル」と書かれた元祖の担々麺だ。 担々麺は19世紀中ごろ、中国四川省で生まれた。てんびん棒で担いで売り歩いたことから「担担麺(ダンダンミェン)」の名前がついた。原型は汁のない和(あ)えそばだったものを、汁そばスタイルに変化させたのが、四川飯店創業者の陳建民さんだ。 四川省出身の建民さんはNHK「きょうの料理」の講師などで活躍し、マーボー豆腐やエビのチリソースなど多くの四川料理を普及させた。それ以前は北京料理や広東料理がポピュラーだったから、建民さんがいなかったら、日本での中国料理の勢力図は違っていただろう。 その建民さん、当初は故郷そのままに汁なしスタイルを出したが、どうも客の評判が思わしくない。妻の洋子さんに「日本人はみそ汁が大好きよ」というヒントをもらい、スープを組み合わせ、完成させたのが現在の担々麺だ。このスタイルは今や全国に広がり、日本の定番になった。
■専用ラー油、ゴマの香りを引き立て
建民さんの創意工夫は、ただスープを加えただけではない。スープの味つけに芝麻醤(ゴマペースト、四川飯店では「ズーマージャン」と呼ぶ)をふんだんに使い、香りとまろやかなコクを足したことと、トッピングの肉そぼろを日本人好みの甘口みそ味仕立てにしたことだ。 四川飯店の各店では芝麻醤を手作りする。建民さんの時代から同じ白ゴマを使い、中華鍋を振り続けて黄金色になるまでじっくりと炒(い)り、数回ミンチ機で挽(ひ)いて滑らかなペーストにしている。市販品より格段に香り高いこの自家製芝麻醤なくしては、担々麺は成立しない。 四川料理に不可欠なラー油は、用途別に自家製の数種を使い分ける。担々麺用のラー油はゴマの風味を損なわないように、香辛料は利かせすぎず、辛すぎず、色味は赤が強すぎないようにマイルドに仕上げるのが特徴。ちなみにマーボー豆腐用のラー油は、透明感のある濃い赤色を出すのが最大のポイントだ。 「担々麺の極意は、芝麻醤、ラー油、スープの全部がバランスよく調和していること」と赤坂店料理長の田中良司さんは話す。私たちはついガツンとした力強い味を求めがちだが、担々麺好きならば、品がよく繊細な元祖の味を知っておかなければならない。