「伝統的酒造り」ユネスコ無形文化遺産に登録決定 大谷が指揮官に贈った酒!?の岡山の酒蔵も大喜び
南米パラグアイで開催中の国連教育科学文化機関(ユネスコ)政府間委員会は4日(日本時間5日)、日本酒や本格焼酎、泡盛などの「伝統的酒造り」を無形文化遺産に登録した。地球の裏側からの吉報に全国の酒蔵が沸いた。今年5月、ドジャース・大谷翔平がロバーツ監督の誕生日に贈ったとされる酒を造っている岡山県の「宮下酒造」も大喜び。海外での知名度アップによる輸出拡大や、地域振興に弾みがつきそうだ。 登録は全会一致で決議された。酒造りの知識と技術が「社会にとって強い文化的意味を持つ」とし、酒が日本の祭りや結婚式などの行事に不可欠であると指摘。「地域社会の結束に貢献している」などと評価された。日本からの登録は23件目。1915年創業、宮下酒造の林克彦さん(48)は「伝統的な造り方は変えていない。そういったところも見てもらえてうれしい」と声を弾ませた。 宮下酒造といえば、5月に大谷がロバーツ監督に贈ったとされる日本酒を手掛けた酒造。「赤いベルベットの栓」との監督の説明や、山本由伸の出身地・岡山の酒であることが伝えられ、これが同酒造の「純米大吟醸 MIYASHITA ESTATE」(税込み11万円)ではないかと話題になった。林さんは「当時は普段の数倍の注文や問い合わせがあった。効果は今もあり、ワールドシリーズで優勝した時も大変だった」と笑った。 伝統的酒造りは、カビの一種のこうじ菌を使い、蒸したコメなどの原料を発酵させる日本古来の技術。長い年月をかけて磨かれてきたが、杜氏(とうじ)らの高齢化も進み、保護や継承に向けた人材育成が今後の課題だ。そんな中で、老舗酒造での酒造り体験ツアーや工場見学が訪日客から好評だ。 長野県佐久市の旅行会社「クラビトステイ」は2020年から体験ツアーを企画し、これまで約30カ国、延べ約650人が参加。スイスから訪れたアントニ・ガンディアさん(38)は「酒の醸造過程や文化を知りたかった」と語った。日本で酒造りに関わる外国人も増えており担い手確保に向けた新たなアプローチにもつながりそうだ。また、今年1~9月の累計輸出金額(国税庁調べ)では、清酒の輸出先1位は米国で86億円以上。これをさらに拡大させる好機だ。 現在、ロバーツ監督が来日中。そのタイミングで酒造りが注目を集めた。林さんは「監督がお酒のことを覚えてくれていて、ご自身で買っていただけたら…。また日本の酒造りが盛り上がるのではないでしょうか」と期待を寄せた。(小田切 葉月) ◇無形文化遺産 2006年発効の無形文化遺産保護条約に基づいてユネスコが登録する無形の文化。伝統芸能や工芸技術、祭礼行事など多岐にわたる。24カ国で構成する政府間委員会が毎年1回、評価機関の勧告を踏まえて登録の可否を決める。文化の多様性を示していることや、国内の保護措置が取られていることなどが登録の条件。日本は他に「歌舞伎」や「和食」などが登録されている。政府は「書道」も申請しており、審査は26年秋ごろの見通し。 ≪大谷の地元“二刀流セット”「付加価値付く」≫大谷の地元、岩手県奥州市の蔵元「岩手銘醸」の及川順也専務も「間違いなくプラスになります」と登録決定を喜んだ。同社の日本酒「奥州ノ龍」は侍が野球の投手と打者に扮した2種類のラベルで販売中。“地元の星”を応援する意味も込め、2本入りは「二刀流セット」(税込み6600円)として売り出している。今春から投手ラベルの瓶はドジャーブルーを思わせる青色になり大谷が活躍する米国にも輸出。「今回の登録で、さらに付加価値が付く。今後が楽しみです」と注文増に期待した。 ≪能登地震被災地にも吉報≫元日の能登半島地震で大きな被害を受けた石川県の奥能登地域の酒蔵にも吉報となった。珠洲市蛸島町の「桜田酒造」は地震で蔵や店舗が全壊。桜田博克社長(53)の頭に「廃業」がよぎったが、約2週間後、倒壊した蔵から酒米4トンを取り出したことを機に「酒を造らなければ」との使命感に駆り立てられた。自分たちのなりわいが文化遺産となることに「先輩たちがやってきたことが認められた」と喜びをかみ締めていた。