たった10年で交通事故死が29%減、フィンランドの道路安全戦略
フィンランドは過去10年で、交通事故による死亡者数を実に29%も減らした。同じ期間で、欧州連合(EU)全体での平均減少率は16%だ。 フィンランドが達成した成果は、幅広い対策のたまものだ。ほとんどの都市部における速度制限や、3000キロメートル近い主要道路での速度違反自動取り締まりカメラの設置から、歩道、自転車専用レーン、400キロメートルにわたる高速道路の建設まで、さまざまな対策が実施された。 この成果が高く評価され、フィンランドは2024年、道路の安全がめだって進歩した国に贈られる、道路安全性指数(PIN)アワードを受賞した。受賞のニュースは2024年夏、ブリュッセルに本部を置く独立した非営利組織である欧州運輸安全協議会(ETSC)によって発表された。 ETSCのアントニオ・アヴェノソ事務局長は声明の中で、「フィンランドには、『vahinko ei tule kello kaulassa』ということわざがある。おおまかに翻訳すると、『事故は、首に鈴をつけて訪れるわけではない』という意味になる」と述べている。「フィンランドがこれほど包括的かつ戦略的なアプローチをとり、道路における危険のさまざまな面に対応しようとしている理由は、このことわざで説明できるかもしれない」 フィンランドにおける現在の道路安全戦略を導いているのは、「ビジョン・ゼロ」や「セーフ・システム」と呼ばれる道路安全・設計アプローチだ。これは人的ミスを考慮に入れたアプローチで、1990年代にスウェーデンで最初に施行された。 この戦略の目標は、複数階層からなる予防策を講じ、あらゆる交通事故による死亡や深刻な負傷を撲滅することにある。複数の予防策があれば、1つが失敗しても別の策がセーフティネットとなり、交通事故の影響を軽減できる。そうした数々の改善により、人、道路、車、速度の安全性向上や、事故後の治療成績向上といった結果につながると目されている。 研究者らによれば、フィンランドが国を挙げて取り組んでいる幅広い道路戦略は、速度制限、インフラの改善、速度カメラの設置のほかにも、さまざまな対策を網羅することを目指しているという。例えば、以下のような対策だ。 ・広範な年齢層から構成される、多様な道路使用者における交通スキルの向上。例えば、生徒を対象とした道路交通教育を実施している学校の割合調査、子どもや若者がからむ交通事故の数の調査など ・国の交通安全アプローチの一環としてメンタルヘルスを考慮。交通事故死の統計に、道路上での自殺を含めているのは、EUではフィンランドとエストニアの2カ国だけだ ・バイクおよび原付自転車でのヘルメット着用の促進。着用率は99~100% ・警察による、運転者のアルコール・薬物検査のランダムな実施を許可 ETSCによれば、フィンランドでは、自己申告による調査で「飲酒運転をしたことがある」と回答する人が、EU平均と比べて大幅に少ない。危険な行動である飲酒運転に対する許容度が全般的に極めて低いという。 また、すべてのスクールバスやスクールタクシーで、アルコールインターロックの設置が義務づけられているほか、飲酒運転で有罪になった運転者の車でも、同装置の設置が義務づけられている(運転禁止に代わる、長期的な更生プログラムの一環)。 「こうした取り組みは、交通事故が起きてしまった後にも及ぶ。欧州では、死亡事故を1件残らず詳細に調査している国はフィンランドだけだ」とアヴェノソ事務局長は述べている。