箱根駅伝2025 創価大・吉田響と青学大・黒田朝日が驚愕の2区区間新 3人が1時間5分台の史上最高レベルの戦い、証言で振り返るそれぞれのレースプランとは――
第101回箱根駅伝は1月2日の往路スタートから波乱の展開となった。優勝候補の國學院大、駒澤大、青山学院大を抑えてダークホースの中央大が1区スタート直後から独走すると、エースが集う花の2区でも想定外の結果が待っていた。東京国際大のケニア人留学生リチャード・エティーリ、創価大の吉田響、青山学院大の黒田朝日の3人が1時間5分台の区間新記録。ハイレベルな争いとなった2区の勝敗を分けたそれぞれのレースプランとは――。 【ヴィンセント超えを果たした吉田響と黒田朝日】 2区のフィニッシュ地点となる戸塚中継所では、どよめきが起きた。区間新記録となる1時間05分31秒のエティーリ(2年)に続き、青山学院大の黒田朝日(3年)、創価大の吉田響(4年)もこれまでの区間記録を更新したからだ。 創価大の吉田響(4年)は、鶴見中継所では17位で赤と青のタスキを受け取った。そこから初めての2区で衝撃の13人抜き。前半10kmまでは、ずっと我慢していたという。「なかなか前の集団を追えずに(精神的に)苦しかった」。それでも、権太坂手前の13km付近から徐々にペースアップし、次から次に前の背中を捉えていく。 「少しずつ前の選手を回収して走ることができたので、それがモチベーションになりました」 15km以降は後半勝負を目論んでいた吉田の理想通りの展開。3強の一角である國學院大の平林清澄(4年)をつかまえ、21km過ぎでは駒澤大の篠原倖太朗(4年)まで抜いた。ラスト3kmから表情をゆがめて動きが鈍くなる他大学のエースが多くいるなか、すいすいと"戸塚の壁"を上り、4位まで浮上した。 タイムも圧巻だった。東洋大の相澤晃(現・旭化成)が持つ日本人最高タイムの1時間05分57秒だけではなく、東京国際大のイェゴン・ヴィンセント(現・Honda)が2021年(第97回大会)に記録した1時間05分49秒も上回る1時間05分43秒をマーク。歴史的な快挙を成し遂げた本人はタイムを聞かされると、少しだけ口元を緩めた。 「区間新を樹立して、日本人トップを取れてほっとしています」 ただ、心から満足はしているわけではない。落ち着いた顔に戻り、すぐに言葉をつけ足した。 「僕の仕事は先頭まで順位を押し上げることでした。エティーリ選手はさらに強くて区間賞を獲得できなかったので、そこは悔しいですね」 過去2度走っている"山区間"へのこだわりも強かった。12月中旬までは2区と5区で思い悩んでいた。最終的に榎木和貴監督と相談し、チームのためにエース区間を走ることを決断。レース後には正直に複雑な思いを口にした。 「"山の神"になれなかったのは悔しいです。5区で区間新を出して優勝に貢献したかったのですが、自分の気持ちを押し殺しました。チームを勝たせるため、チームのみんなで笑うために2区で走りました」 一方、清々しい表情で取材対応していたのは、同じく区間新の1時間05分44秒をマークした青学大の黒田だった。前回大会2区で区間賞を獲得している3年生エースは、冷静にレースプランを遂行していた。10位でタスキを受けても焦ることはなく、吉田響が後ろから迫ってきても、最後まで自分の走りを崩さなかったという。 「順位は意識していなかったですし、誰が来ても、自分の走りに徹するだけでした。権太坂に入るまでは、前との差も詰まらないと思っていたので。それ以降、ペースアップできたので、まったく問題なかったかなと。 今年度はエースと呼ばれるようになり、この区間で自分の責任を果たすことを考えていました。日本人トップで走れなかったのは少し残念ですが、吉田響さんのタイムは来年、超えればいい。僕はまだ3年生なので」 前回の100回大会に続き、7人を抜いて3位までチームを浮上させた働きぶりには、貫禄が漂っていた。役割をしっかり果たし、後続への信頼も言葉にしていた。 「3区以降は強い4年生たちがそろっているので、トップまで駆け上がってくれると思います」 前回王者の自信を垣間見た約3時間後。5区の若林宏樹(4年)が、両手を広げて芦ノ湖で往路優勝のフィニッシュテープを切っていた。