「生誕120年 人間国宝 黒田辰秋―木と漆と螺鈿の旅―」(京都国立近代美術館)開幕レポート
京都国立近代美術館で、生誕120年を迎える人間国宝・黒田辰秋(1904~1982)の回顧展「生誕120年 人間国宝 黒田辰秋―木と漆と螺鈿の旅―」がスタートした。会期は2025年3月2日まで。担当学芸員は大長智広(同館主任研究員)。 黒田は出身地である京都を拠点に活動した日本を代表する木漆工芸家であり、1970年には木工芸の分野において初めてとなる重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された人物だ。木と漆を用いた実用性と美の両立を追求し、図案・素地づくりから装飾までを一貫して自身で手がけることで独自の創作世界を切り開いた。 開催に先立ち、担当学芸員の大長は同展について次のように語る。「展覧会全体そして作品の一点一点から黒田の本質がわかる内容となっている。自分でつくると決めたものに対して、適切な素材や技術を選び、図案からすべて自身で手がける。その一貫したビジョンが作品それぞれから読み取ることができるのが印象的だ。本展を通じて、ものづくりの原点に立ち返る機会になれば」。 会場では、黒田の生涯と作品を「第1部 黒田辰秋の軌跡『黒田辰秋 人と作品』より」「第2部 用と美の邂逅」といった2部、233点を通じて紹介している。 随筆家・白洲正子が1972年に企画編集を行った作品集『黒田辰秋 人と作品』には、当時すでに68歳であった黒田の半世紀にわたる作家活動の記録が記されており、黒田を語るうえで重要な資料となっている。第1部は、その作品集をもとに黒田の活動がダイジェストとして紹介されている。 最初期から晩年までの作品が並ぶ空間を見渡すと、その作風が大きく変わっていないことにも気がつくだろう。「一見起伏が少ないように感じるかもしれないが、それはつまり黒田のなかで何をつくるべきかが明確で、それを生涯貫き通したということもできるだろう」と大長は黒田の作家活動の特徴について述べた。
文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)