「焼肉きんぐ」食べ放題でペヤングのなぜ 5万食突破、背景に危機感
焼き肉食べ放題業界に対する危機感
今回のCAMPフェア、前述した韓国フェアを含め、焼肉きんぐでは期間限定フェアに積極的だ。その背景にあるのは、食べ放題業界に対する危機感だ。 霜山氏は「22年ごろ、このまま同じターゲットに訴求していると、業界の衰退につながる。次世代の顧客の育成に取り組む必要がある」と感じ、10~20代をターゲットに期間限定フェアに注力し始めた。 そもそも、「焼肉きんぐは創業当初から食べ放題のイメージを変えようとしてきた。創業当時食べ放題といえば、『安かろう悪かろう』。おいしくない、元が取れない、ビュッフェスタイルで慌ただしいというイメージが一般的だった。そんな中で焼肉きんぐは、おいしくて、圧倒的な品ぞろえを低価格で楽しめて、席で注文ができる店づくりを目指してきた」と霜山氏は語る。 食べ放題の悪いイメージを払拭できたと焼肉きんぐが判断したのは19年。次は、食べ放題としての価値をワンランク上げることを計画した。 加藤氏は「同じ価格帯の焼き肉店とどう差別化するかを必死に考えた。米国に自分で行って肉を探し、どのように切って、どのようにお店に卸して、どのように盛り付けるかをイメージした」と当時の苦労を振り返る。そして行き着いた結論が「四大名物」メニューの投入だ。 20年3月に発表した焼肉きんぐの四大名物のラインアップは、「きんぐカルビ」「鬼ポンで食べる大判上ロース」「ガリバタ上カルビ」「ドラゴンハラミ一本焼き」。加藤氏は「ワンランク上の食べ放題を感じてもらうために、塊のお肉や断面が大きいお肉を名物に設定。それらを豪快に焼いて食べる非日常感を、ファミリー層に楽しんでもらいたかった」と話す。 その上で注力し始めたのが、次世代の顧客となる10~20代に向けた仕掛けだ。期間限定フェアを企画したり、新感覚デザート「ぐるぐるまぜてね きんぐスロッピー」で様々な製菓メーカーとのコラボをしたり、焼き肉以外の要素も楽しめるようにした。 並行して、焼き肉を楽しみたい人ももちろん引き付け続けたい。焼き肉以外の要素を拡大すると同時に、四大名物を五大名物に進化させた。 ●焼き肉専門店として譲れないもの その時々で新たなチャレンジをしつつも、変わらないのは「“焼き肉で”お客様を絶対に満足させる」という意思だ。 霜山氏は「お客様に通じるかどうかはさておき、どんなに人気の期間限定メニューでもグランドメニューには入れない、遊び心ある商品には牛肉を使わないなど、業態開発本部の中では明確に線引きしている。あくまでも、グランドメニューの焼き肉を楽しみにしている人に満足してもらうことが優先。焼き肉専門店としての業態を崩さないようにしている」と語る。 「もうけたければ、原価率の高い牛肉にこだわった五大名物なんてやらない方がいい」とした上で、「でも、焼き肉専門店の本質は、カルビ、ロース、ハラミ、タンなどの主要牛肉商品をどれだけ自信を持って提供できるか」だと霜山氏。「売れる、売れないよりも、お客様が喜んでくれることをやりたい」との意気込みを語った。 焼肉きんぐが焼き肉専門店としてプライドを持って丁寧にブランディングし、焼き肉もそれ以外もそれぞれ楽しめるようにしているからこそ、焼肉きんぐで食べるペヤングもおいしく感じるのかもしれない。
品田 彩華