テレビや音楽のボリュームをつい上げがちな人は要注意!聴力と認知症との深い関係【老年医学専門医・山田悠史】
難聴は、認知症リスクを増やす可能性が最も高い
このように、実は日常生活のさまざまな場面で私たちは大きな音にさらされており、それが積み重なることで徐々に、または突発的な大音量によって急激に、耳の聞こえが悪化する可能性があるのです。 大きな音が聴力の低下につながるメカニズムとして、大きな音が耳の奥の内耳と呼ばれる場所にもたらす直接的なダメージが報告されています(参考文献6)。また、耳の中で、大音量にさらされた後にはさまざまな代謝の変化も起こり、それが間接的に音を感知する細胞を傷つけてしまうことも報告されています。 では、なぜここで耳の話をしているのかといえば、実はこの難聴が、認知症のリスク要因の中で、人口レベルでは最も大きな影響を示していると考えられているからです(参考文献7)。難聴は、加齢や他の要因と独立して認知症リスクを最も増やす可能性が高いのです。
聴力の低下は、脳が小さくなることと関連
少しそれを示した研究の結果を見てみましょう。例えば、初期の認知機能が正常で、(WHO基準の)25デシベル以上の聴力障害がある人を対象とした研究(参考文献8)があります。 この研究によれば、2009~2017年の追跡期間中に、聴力に問題のある人の認知症リスクは1.9倍まで増加することが分かりました。この研究では長期に追跡期間をとっていることから、逆の因果関係、すなわち認知症が原因で聴力に問題が起こっているという可能性は低いと考えられています。また、聴力が10デシベルずつ悪化するごとに認知症リスクが1.3倍ずつ増加することも報告されています。 このように、聴力と認知症には密接な関係がありそうですが、聴力の問題がなぜ認知症に結びつくのかを説明するメカニズムはまだ完全には解明されていません。しかし、興味深い研究結果(参考文献9)があります。194人の認知機能が正常な成人(平均年齢54.5歳)を19年もの間追跡した研究では、この期間中に少なくとも2回のMRI検査を行い、脳の構造を評価しています。その結果、中年期の聴力の低下が、脳の中で記憶を司る海馬や側頭葉の容積の減少の加速と関連していることが分かりました。