「主人公の目で街を眺めてみたら」『こまどりたちが歌うなら』寺地はるな
街の書店と沿線在住作家との幸せな関係
作家と書店との結びつきは、物語を生み出す人とそれを読者に届ける場所、という密なる関係だ。今回「思い出のある街の書店は?」との質問に、水嶋書房 くずは駅店との答えが。生活圏の沿線である京阪電車の樟葉(くずは)駅に併設されている書店で、場所柄、住民はもちろん、通勤で使う人にも利用されている。地域の作家として寺地さんの大きなコーナーも設けられていて、丈高く並べられた単行本や文庫の間に、書店員による熱い推薦コメントや、小説のワンシーンを再現した立体ポップも飾られていて賑々(にぎにぎ)しい。 「ここには作家になる前からよく立ち寄っていました。駅の東側のくずはモールにSANZEN-HIROBAという京阪電車の昔の車両を展示した広場があって、車内で運転シミュレーションができるのですが、子どもが4歳くらいのときに一緒に来ていたんです。そこで遊び、水嶋書房で本を買って帰るのが私たち親子の定番コース。その時期はちょうど公募に応募して、デビューしたての頃。注目の大型新人というわけでもなかったので、デビュー単行本が書店にないことも多かった。そのときにすごく売れている作品がポップとともにコーナー展開されていて、いつかこんなふうにいっぱい置いてもらえるようになりたいなと思いながら眺めていたのを覚えています。今はそのときに想像していたように大きく展開してくださっていて、本当に嬉しい。当時憧れながら見ていた書店で盛り上げていただいているのも、自分にとって意味深いです」 作家の立場でやりとりが始まったのは2019年から。現在も2ヶ月に一度は訪れ、サイン本を作ったり企画の打ち合わせをしたりと仕事もしつつ、以前と変わらず読者となって気になる本も買って帰る。 「最初の接点は、プルーフ(見本)を読んでくださる書店員さんを募集した際に、水嶋書房の書店員の方が応募してくださったこと。版元の意向で私が窓口になってツイッター(現X)のDMで応募を受け、それをまとめて版元に渡すという作業をしたのですが、直接やりとりした結果、お話しするようになった書店員の方がたくさんおられたんです。その企画で水嶋書房の方にもお申し込みいただきました。『私、よくお買い物をしているんです』とお伝えしたらとても喜んでくださって、そこからお付き合いが始まりました」 2020年は『希望のゆくえ』『水を縫う』『やわらかい砂のうえ』他、2021年は『ほたるいしマジカルランド』『雨夜の星たち』『ガラスの海を渡る舟』など、2年間で新しい作品の刊行が相次いだこともあり、寺地さんコーナーがどんどん拡大。買い物ついでにとサイン本を作ることもあり、寺地さんのサインの入った本が途切れることはあまりない。 「街の本屋さんのなかでも水嶋書房は規模が大きいほう。今住んでいる街の書店は棚が限られていて、私の文庫はあるのですが単行本はまだ見かけたことはありません。そこに並んでいるのを見たときに、作家になったんだなと実感が増すのかもしれませんね」