「卒FIT」で風力発電が半減の危機って、本当ですか? 電力の「地産地消」実現のカギを握る「アグリゲーター」 キーパーソンに聞く「再エネ新時代」のあるべき姿
「地元に利益」で地域トラブルを解消
現在、メガソーラーや陸上風力発電の建設をめぐって地域住民とトラブルになる事例が相次いでいます。野放図な開発が自然破壊につながったり、地域の景観を損ねたりすることが問題視されているのです。 開発にあたって周辺環境に配慮する必要があることは言うまでもありませんが、三宅氏は再エネをめぐるこれまでの経済構造も問題の一因だったと考えています。 「FIT制度では再エネはすべて大手電力会社に買い取られてしまいますから、地域の人々にはほとんど利益をもたらしません。自分たちの土地を奪われて、搾取されているような感覚になっている人も多かったのではないかと思います」 一方、新たに始まったFIP制度では、発電事業者は自ら買い手を探して契約します。アグリゲーターを通して地元の地域新電力などに電気を供給すれば、これまでは難しかったエネルギーの「地産地消」が可能になるのです。 「2021年と2022年には、需給の逼迫(ひっぱく)やウクライナ危機の影響で相次いで電力の市場価格が高騰しました。再エネの発電事業者と地域新電力が相対契約すれば、そうした市場価格の乱高下を心配することなく固定価格で長期にわたって電気を供給することができます。 地域の再エネによって地元の人々が安価で安定した電力を利用できて、余った分を地域外に売ることでさらなる利益をもたらしてくれる。こうした仕組みが構築できれば、再エネと地域との関係も改善されていくと考えています」 REPOは現在、北海道、東北、東京、九州という4つの地域で5社の地域新電力などに電力を供給しています。現在、地域新電力の電気の売り先は公共施設がほとんどですが、今後は事業者や一般家庭への電力供給にも広がっていくはずだと三宅氏は語ります。
人知れず迫る「風力半減」の危機
FITからFIPへの移行はこうしたチャンスも秘めていますが、現実には多くの再エネ発電事業者にとって事業継続の障壁になってしまっています。 FIT制度は2012年に始まり、特に太陽光発電の導入が急速に進みました。事業用太陽光発電の固定価格での買い取り期間は20年間なので、2032年移行、「卒FIT」を迎える発電事業者が大量に出てくることになります。こうした事業者がFIP制度に移行できずに廃業してしまえば、せっかく進んだ再エネの普及が逆戻りしてしまいます。 陸上風力発電では一足早く、そうした危機が現実のものになりつつあります。 陸上風力は2003年に始まったRPS制度(再生可能エネルギー割合基準制度)の時代にかなりの規模で導入され、その多くはその後FITに移行しています。2030年までに設備の稼働開始から20年が経過して「卒FIT」を迎える陸上風力の設備容量は約250万kWで、FIT制度が始まって以降につくられた約200万kWを上回っています。 「RPS時代につくられた陸上風力の一部は、すでに『卒FIT』を迎え始めています。新制度への移行の難しさに加え、老朽化によりメンテナンスが必要でもその資金やノウハウが足りないなどの理由もあって、事業の継続に行き詰まる発電所が続出しています。仮に今後、これらの事業者がすべて廃業して施設が撤去されてしまったら、元々少ない日本の風力発電が半減してしまいます」 REPOでは、こうした風力発電所を救済する取り組みもおこなっています。青森県大間町では、市民出資で運転を開始した風力発電所(1基)の譲渡を受け、部品の取り換えなどのリノベーションをおこなったうえで2024年5月に再稼働しました。この発電所も2026年のFIT期間の終了を前に継続が危ぶまれていた施設です。 このように、アグリゲーターはFITからFIPへの橋渡し役としても重要な役割を担っていますが、三宅代表は「まだまだ参入事業者の数が足りない」と訴えます。2024年10月17日時点で、経産省のライセンスを取得しているのは83社。しかし、REPOのように地域に分散した小規模発電所を束ねるかたちで実際に事業を行っているのは数社のみだといいます。 「アグリゲーター事業者が不足していることが、FIPへの移行がなかなか進まない一因だと考えられます。再エネの発電事業者からしたら、相談できる相手がどこにもいないわけです。私たちがアグリゲーター事業のモデルケースをつくることで、仕組みをプラットフォーム化してさらに普及させていきたい。社名に『機構』とつけたのも、そうした思いからです」