服役11回の重度知的障害者、仕事快活でもまた再犯 懲罰から福祉へ、支援者の試行錯誤
「見守り」か「監視」か
京都市は、男性に通所以外は常時、就寝中も含めてヘルパーが交代で付き添うことを認めた。ケアプランを作った中村さんは、この支援体制が社会で経験を積むためには必要だったとしながらも、「監視」の性格も帯びていたと自覚する。 ヘルパーの一人として加わった「訪問介護まごのて山科」(山科区)の統括マネージャー、岡山潤平さん(44)は「『見守り』が『監視』になれば、逃げたくなるのは分かる」とし、「そうならないために良好な関係をつくることが僕の仕事」と考えていた。 男性が通った就労支援施設「道のさち」(同区)の管理者、河島久恵さん(50)は「一生懸命働き、生き生きとしていた」と語る。
想定外の再犯、逮捕
他の利用者と昼食を共にして談笑し、職員の顔と名前を覚えて会話した。彩色でアート作品を生み出す仕事に黙々と励んだ。作業を重ねると色使いは多彩になった。河島さんには、男性が自らの存在を周囲に認めてもらえるのを喜んでいるように映った。 「社会にいるのが短いから、『やりたいこと』を知らないだけなんじゃないか」 男性は後に、塀の外で楽しかったのは「ご飯を作ったり、買い物に行ったりすること」だったと答えた。そんな地域生活は昨年9月26日に急転する。
夜間に個室の窓から外へ抜け出した。関係者には想定外の事態だった。近くの駐車場にあった軽ワゴン車に乗り込んで、車内に置かれたままだった鍵を差して無免許運転し、京都府警に逮捕された。 「乗りたかった」。3週間後、勾留先の警察署で中村さんと面会した男性は神妙に答えたという。「彼を責めても次にはつながらない」。面会直後の取材に、中村さんがつぶやいた。
服役に何の意味?
なぜ自らが反省しているのかを男性はどこまで理解できているのか、中村さんには疑問だった。懲罰で衝動を抑制できないのは明白。服役は「家に帰れない経験」でしかない。だからこそ、リスク含みでも地域での暮らしを一刻でも長く続けてもらいたかった、と中村さんは悔いた。 男性は常習累犯窃盗などの罪で起訴された。京都地裁であった裁判には、中村さんによる「更生支援計画書」が提出された。14年前に関わり始めた当初、男性は他人を信用できずにいらつき、通所先の規則を守れなかった。そこからの歩みが「自分を待つ支援者がいるという安心感や信頼感が、より人間らしい変化を生み出した」と記されていた。 累犯障害者への福祉はまだまだ弱いと中村さんは言う。それでも、高齢の母親と離れ、ヘルパーが伴走する地域生活になじめた今回の日々は前進であるとともに「支援の在り方として一つのモデルになる」と力を込めた。 だが、車への衝動をコントロールするために重ねてきた試行錯誤は服役で再び途切れてしまう。