なぜ韓国の大統領は「汚職→失脚」を繰り返すのか…日本では考えられない「縁故がモノを言う」腐敗の構造問題
■過去には盧武鉉氏、朴槿恵氏も… 韓国の大統領あるいはその親族が関与した、スキャンダル事例は以前から見られた。最近のケースだと、朴槿恵(パク・クネ)元大統領は崔順実(チェ・スンシル)という知人女性を国政に関与させた。財閥系大手企業の創業家一族は、政権に近づこうとして崔順実氏の娘に経済的な便宜を図った。 崔順実氏は祈祷師の娘であり、政治、経済などの専門家ではなかった。大統領が一市民を優遇していたことに世論は怒り、大規模な“ろうそくデモ”が起きた。2016年、朴大統領(当時)は弾劾訴追された。崔順実氏は懲役18年が確定した。 革新派の大統領だった、故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏もスキャンダルにまみれたといわれている。盧氏とその側近の政治資金の隠蔽などが問題視された。2004年3月、盧氏は弾劾訴追を決議されたが、最終的には弾劾には該当せずとの裁定が下り大統領職に復帰した。 ■韓国には「縁故資本主義」が根付いている? 他の歴代政権でも、企業との癒着、政治ブローカーと呼ばれる有力な仲介者の存在などが明らかになった。韓国では政権が変わると、過去の違法な金銭授受などが発覚し、大統領経験者やその親族、財閥企業の創業家出身者などが有罪判決を受けた。 韓国では、新興国や途上国でよくみられる“縁故資本主義(クローニー・キャピタリズム)”が常態化していたのかもしれない。縁故資本主義では、市場原理ではなく、血縁や個人的つながりに基づいて便宜を図り、特定の企業や個人に富や権力が偏在する傾向にある。その状況が続くと、国民の間で不公平が発生し経済格差は拡大する。 また、最近の韓国経済が低迷気味であることもマイナス要因だろう。若年層の失業質は高い。少子高齢化も加速度的に進んでいる。中国経済の減速によって輸出の回復も緩慢だ。それらも、尹政権に対する批判・不満の増大要因となった。
■金正恩総書記とプーチン大統領を喜ばせた 今回の非常戒厳と大統領の職務停止に伴う混乱で、当面、わが国や米国が韓国の指導者と冷静に議論を交わすことは難しくなった。今後、韓国の政治的混乱は一定期間続き、社会、経済、安全保障の不安定感、先行き不透明感は高まるだろう。それは、極東情勢、および世界経済に重要な影響を与える。 歴史的に朝鮮半島は米国、ロシア、中国など大国の利害が衝突する地政学の要衝だ。その重要地域で政治的混乱が起きたわけだから、その波紋がさまざまなところに波及することは避けられない。この混乱を見て、北朝鮮の金正恩総書記とロシアのプーチン大統領は内心安心する部分がありそうだ。 韓国と日米の経済安全保障の連携が乱れれば、北朝鮮は水面下で外貨の獲得やエネルギー資源調達を行いやすくなる。日米韓の足並みの乱れを突くようにして、北朝鮮がロシアに軍事物資や兵員の供与を増やし、ロシアがウクライナ戦争での戦線を優位に展開する可能性もある。米国のトランプ次期大統領は、ウクライナ戦争の早期終結を重視している。ロシアがこの機をいかして攻勢を強めることも想定される。 ■日本経済もタダではすまない 北朝鮮が、経済制裁の解除を狙って軍事挑発を増やす可能性もあるかもしれない。米国を射程に入れた、大陸間弾道ミサイルの発射実験を繰り返すようなことになると、米国の世論は北朝鮮を批判し、朝鮮半島情勢の緊迫感はさらに高まることも懸念される。 そうした変化が現実になると、主要投資家はリスク回避を優先する。割高感のある株式に調整圧力がかかる可能性もある。外国為替市場でも波乱があるかもしれない。為替市場が大きく変動すると、わが国企業の業績不安が高まることも懸念される。 さらに、韓国の政治混乱は極東地域の不安定感を高め、世界経済の下方リスク上昇につながることも想定される。そうしたリスクを抑えるには、韓国が、縁故を重視した商慣習、経済運営から脱却することが必要だ。ただ、それには時間がかかるだろう。今回の尹大統領の非常戒厳発表は、改めて韓国が抱える問題の深刻さを明らかにしたといえるだろう。 ---------- 真壁 昭夫(まかべ・あきお) 多摩大学特別招聘教授 1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。 ----------
多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫