BYDシール 詳細データテスト 低速の快適性は要改善 高速域の長距離移動は快適 ハンドリング良好
はじめに
BYDの欧州における市場拡大は、全速力で進んでいる。新規参入や開拓は、まずは様子見からはじめがちだが、彼らはクロスオーバーのアット3を投入すると、1年以内に合計3台を発売した。その3番目に当たるのが、今回のシールだ。 【写真】写真で見るBYDシールとライバル (16枚) BYDは単に欧州へ新型車を売り込んでいるだけではない。欧州での現地生産に向けた動きを、ハンガリーで行っている。中国のメーカーが欧州生産をすれば、今では閉鎖されたロングブリッジ工場を使っていたMG以来のこととなる。 ハンガリー工場の完成は数年後の話だが、今回の主役は新型車のシールだ。アザラシとかアシカとか、誰もが愛らしいと思う海獣の名にごまかされることなかれ。これは本気も本気で造られたクルマだ。 アット3とドルフィンは、やや低価格帯を狙ったモデルで、前輪駆動だ。どちらも、このクラスを牽引してきたライバルたちを揺るがすまでではない。ただ、ドルフィンの価格設定は魅力的だ。 しかしシールは、後輪駆動の上位機種で、バッテリー容量は大きく、ハンサムな空力ボディと大きなパワーも備えている。パッと観ではテスラ・モデル3のライバルといった感じだが、走らせてもそうなのだろうか。
意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆
BYDのデザインスタジオは2016年から、アウディやアルファ・ロメオで辣腕を振るったウォルフガング・エッガーが率いている。そのため、最近のBYDのデザイン言語は、いかにもドイツ人のベテランが手掛けたと思わせる、ややもすれば当たり障りなく感じさえしそうなまとまりがある。 スムースで公称Cd値が0.22と空力に優れたセダンボディは、テスラからモデル3の顧客を奪いそうな部分は少ないものの、ディテールは精密で、どうにかして好き勝手をほとんど実現している。これまで以上に海の生き物の名を持つクルマらしい要素も見られ前輪ホイールハウス後方とサイドシル後端にはエラ、Cピラーには鱗を思わせる造形がある。もっとも、哺乳類であるアザラシにはどちらもないので、ヒレとなった手足をイメージしたのかもしれない。そうなると、デイタイムライトがヒゲにも見えてくる。 BYD独自開発のe-プラットフォーム3.0は、基本構造の設計こそ格下のドルフィンやアット3と共通だが、駆動力のメインはリアへ移る。中央は独自のブレードバッテリーで埋められる。ほかのメーカーと異なり、バッテリーまで自社開発・生産を行う。電池メーカーが母体となっただけあって、一般的なOEMのニッケルマンガンコバルトよりレアアース使用量を減らしたLFPことリン酸鉄リチウムを採用する。 そのほかにもメリットはある。まず、ダメージを受けた際には、ほかの方式より熱暴走するリスクが低い。そして寿命が長いとされていて、フル充放電を繰り返してもその長寿命に影響しないと言う。 いっぽう、LFPはエネルギー密度の低さがデメリットで、容量を求めると大型化してしまう。充電速度も遅い。BYDではこれを部分的に修正。エネルギー密度については、バッテリーパックの構造を変更することで是正した。 小さなセルの円柱や角柱でモジュール内を埋め、それを並べるのが従来のやりかただ。そうではなく、いきなりケース長と変わらないような長い板状の、ブレードバッテリーの名の由来ともなったセルをパックへ直に設置した。スペースとウェイトをセーブして、LFPには必須ではない液冷システムを組み合わせているのだ。 懸命な判断だが、その文重量はかさんだ。公称値は2055kg、テスト車の実測値は2116kgだが、いずれにせよ、最近計測してモデル3のデュアルモーター仕様の1846kgより重いのだ。 シールのバッテリーパックは、車体構造に統合され、ねじり剛性を高める。公称値の4万500Nm/degは、自動車業界ではあまり聞かないほど高い数値。計測の仕方など不明点もあるが、かなり高剛性だと考えていいだろう。 仕様はふたつ。シングルモーター仕様のデザインは、リアに永久磁石同期式を積み、312psを発生。フロントにコンパクトな非同期モーターを加えたエクセレンスAWDは530psとなる。 どちらも、サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンク。エクセレンスには、メルセデスやヴォグゾールが採用する周波数選択肢のダンパーも装備される。