再戦で真の決着へ。勝者は生まれたが強者は判明しなかった伊調vs川井の金メダル対決
女子レスリングの五輪金メダリスト同士の対戦。しかも、それが2020年東京五輪代表の切符をめぐって戦う最初の大会だと聞けば、レスリング関係者やスポーツファンだけでなく、五輪でしか女子レスリングを見ない人も勝負の行方が気になるだろう。アテネ、北京、ロンドン、リオデジャネイロと五輪を4連覇した伊調馨(34、ALSOK)と、リオデジャネイロ五輪金でその後は世界連覇を続ける川井梨紗子(24、ジャパンビバレッジ)が22日、全日本選手権で、国内では初めての五輪王者同士の試合を実現させた。 試合前日、抽選会が終わり試合の組み合わせが決まったあと、レスリング関係者たちには「伊調と川井、二度も試合が見られる」と笑顔で話す人が相次いだ。そこには、かつて世界で戦った元選手ばかりの役員席も含まれていた。 伊調と川井がエントリーした女子57kg級は、組み合わせ抽選時に選手が1名棄権して出場選手が7名になったため、トーナメント方式から、AとBの2グループによるリーグ戦とトーナメントを組み合わせたノルディック方式に変更された。抽選の結果、2人は同じ組に振り分けられ、リーグ戦の1回戦で対戦することになったが、そこでの勝ち負けに関係なく決勝戦で再び顔を合わせるだろうと誰もが予想した。 勝負はたぶん、二度ある。そんな心づもりが伊調と川井の心理に影響を与えたのか。 試合は、静かに、だが、息詰まるような組み手争いから始まった。 まだ日本代表に手が届いていなかった高校生の頃から、川井は「手さばきが上手い」「教えてできるものではない動き」と組み手への評価が高かった。対する伊調についてよく言われてきたのは、懐深く守る力と、相手の動きへの反応の速さと的確さだ。それが相手の得意技すらみずからの得点源へと変える強さへとつなげてきた。 激しく、絶え間なく組み換え続ける二人の攻防で優勢だったのは、やはり川井。要所で首を抑えるなどし、伊調の攻め手を許さない。消極性への注意を意味する審判からのパッシブが二度、伊調に告げられ、30秒間のアクティビティタイムが指定された。指定された側は、30秒以内に得点しなければ相手に1点を与えることになる。 レスリングの理念は、リスクにチャレンジすることにあるため、攻撃を基本に試合を進行するようルールで推奨されている。消極的だとみなされると、攻めるように審判から促され、再度の促しにもかかわらず態度が変わらないときには制限時間つきで強制的に攻撃をするように指定される。それがアクティビティタイムだ。 これまで見慣れた伊調の試合パターンだと、スロースターターなのでアクティビティタイムを指定されることもあるが、そこからスピードある攻めで得点に結びつけていた。ところが今回は、攻撃に移るタイミングを推し量る様子のまま、30秒が過ぎ、川井に1点が加わった。 30秒間のインターバルを挟み、川井が1点リードした状態で迎えた第2ピリオド、組みづらいからなのか、伊調に三度目のパッシブが告げられ、再び30秒間のアクティビティタイムが始まった。試合後半になるほど動く伊調であれば、何かを仕掛けるはず。指定の30秒間が終わるギリギリのタイミングで、伊調が少し姿勢を低くしたように見えたとたん、川井の右腕が伊調の首を抱え込んでいた。その、少し不安定になったバランスの悪さにつけいって得点に結びつけようとお互いに試みたものの、その場で技術ポイントが追加されることはなく、川井へ1点が追加されるだけに終わった。