再戦で真の決着へ。勝者は生まれたが強者は判明しなかった伊調vs川井の金メダル対決
激しいタックルシーンは見られなかった。川井は組み手が得意。伊調は返し技が多彩と言われるが、共に、ここぞという場面ではタックルから得点してきた。ところがこの試合では、そういうシーンが実現しなかった。 残り時間が1分を切ってから、今度は川井にアクティビティタイムが指定され、最後の最後で何か動きがあるかとすべての目がひとつのマット上に注がれ、張り詰めた空気に包まれた。息詰まるような組み手の末、試合が動かず伊調に1点、スコアは2-1で川井がリードしたところから、伊調がタックルのモーションに入ったが、かつて見たことがある動きと比べるとゆったりしていた。川井がそれを切ると間もなく、試合終了を迎えた。ふうーっ、と試合を見ている側も思わず大きな息を漏らすような6分間が終わった。 2-1で川井の判定勝ち。得点はすべてアクティビティタイムからのもので、技術点はお互いゼロに終わった。川井にとっては、4年前の全日本選手権決勝以来、四度目の対戦で伊調に初勝利。伊調にとっては、17年ぶりに日本人選手に敗れる結果となった。 「二人とももっと攻めなきゃ」と言いながら、足早に取材エリアの脇を通り過ぎたのは、モントリオール五輪金、ロサンゼルス五輪銅の高田裕司・日本レスリング協会専務理事。 翌日、また同じ顔合わせで試合をする可能性がとても高いことを考えると、すべての手の内を見せるにはまだ早いと、お互いに“負けない”戦い方になってしまったのかもしれない。 その後、リーグ戦を川井は全勝で1位、伊調は1勝1敗の2位で決勝トーナメントへ進んだ。お互いに準決勝を勝ち上がると、大会最終日23日の決勝進出を決めた。 翌日朝の計量に備えた調整途中にもかかわらず取材エリアに姿を現した川井は、カメラをまっすぐ見つめながら、この大会期間中、もっとも注目を浴びる試合を戦ったことについて「見る側になったら、面白い試合だなと自分でも思います」と小さく苦笑いしながら答えた。 攻める場面が少ない試合になったことについて川井は「反省点はもちろんありますが、あれが事実、しっかり戦った、自分の実力だと思います」と、試合内容をありのままに受け入れていると落ち着いた口調で語った。そして、金メダリストだからということは意識せず、オリンピックがかかった最初の大会での優勝という目標からぶれないように、慎重に歩みをすすめる姿勢を示した。 一方の伊調は、取材時間と翌日への調整とが重なってしまったのか、協会広報が談話を読み上げる形で、久しぶりの全日本選手権について振り返った。そのコメントで今大会は「オリンピックへ向けての復帰戦」と位置づけていることを明かし、これまで明言を避けてきた、2020年東京五輪を目指す気持ちを初めて吐露した。 そして、再び川井と対峙することになる決勝戦については、「(1回戦での川井戦より)もっと自分から展開を作って(二回目の日本代表選考となる)明治杯全日本選抜選手権へ向けて、たくさん収穫があったらいいなと思います」と、やはり、これまで頑なに口を閉ざしてきた、五輪5連覇へ挑戦する気持ちを明かした。