メルセデス・ベンツEQS 詳細データテスト 望外の操縦性 SUVよりMPV的 シートの操作に不満
はじめに
昔ながらの自動車メーカーは、困惑が続いている。長らく使い続けたエンジンや、100年にわたり確立されてきたデザインのルールが適用できなくなったときに、いかにしてアイデンティティを保つのか、という問題だ。形態やネーミングが変われば、ラインナップのヒエラルキーにも大きな影響を与えることになる。 【写真】写真で見るメルセデス・ベンツEQSとライバル (16枚) メルセデス・ベンツSクラスのコンセプトは、広く知れ渡っている。ショーファーユースにもオーナードライバーにも対応する高級サルーンだ。対して電動モデルのEQSは、さまざまな点で優秀であり、先進技術のショーケースとは言えるが、威厳あるサルーンとしての地位は確立できていない。厳密に言えば、ハッチバックであってサルーンではない。 EQS SUVはというと、もっと伝統とはかけ離れたところにあるクルマだ。車名だけを見れば背の高い電動Sクラスのようだが、そういうものではない。ずんぐりしたボンネットや、7座のレイアウトを見れば、その思いが強くなる。 EQS SUVとは何者なのか。アラバマ製の巨大なクルマは、アメリカ向けのEVであって、欧州市場などを二の次にしているのか、そのあたりを確かめてみたい。
意匠と技術 ★★★★★★★☆☆☆
EQS SUVは、GLEやGLS、EQE SUVと同じくアメリカのタスカルーサ工場製で、フォードF-150とも肩を並べるようなアメリカンサイズだ。 5125mmという全長は、BMWやアウディのもっとも大きいEV、具体的には4953mmのiXや4915mmのQ8 E-トロンより長い。5209mmあるICEモデルのGLSに近いが、EV専用プラットフォームを使用するので、ボンネットもオーバーハングも短く、ホイールベースは長い。7座レイアウトも可能にし、英国仕様は全車3列シート仕様となる。 プラットフォームは、サルーン系のEQSと同じEVA2。バッテリーはデビュー時が108.4kWh、すぐに登場したアップグレード版は118.0kWhと大容量だ。2024年1月以降は全車拡大されたバッテリーを積むが、今回のテスト車はアップグレード前の仕様となる。一般的なニッケル・マンガン・コバルト式だが、前世代よりコバルト含有率が10%ほど減少している。 当然というべきか、大きなバッテリーを積めば車両重量も増す。公称値は2730kg、テスト車の実測値は2899kgだった。バッテリーが拡大された仕様は、3tに届いてしまう。 英国仕様は、エアサスとアダプティブダンパーが標準装備。110km/h以上では車高を下げて空気抵抗低減とスタビリティ向上を図り、80km/h以下になるとまた車高が上がる。また、2モーターの4WDと、最大10度可動する後輪操舵も、英国仕様は全車に搭載。11.0mという回転直径は、なんとAクラスと同じだ。 EVの効率にとっては、重量より空力のほうが重要で、それがデザインを決定づけているのはEQSやEQEと同様だ。パネルを張ったグリル部分や、丸みを帯びたフロント周り、傾斜の大きいフロントウインドウなどはその結果だ。リアディフューザーのリップや、アンダーボディのさまざまなスポイラーも寄与して、実現した0.26というCd値は、Q8 E-トロンの0.28を凌ぐ。しかし、iXはさらに上を行く0.25だ。 効率について語るならば、ヒートポンプ未搭載なのは驚きだ。パワートレインの排熱をキャビンの暖房に使用しているとのことで、ほとんどの環境で十分に機能するようだが、今後の改良でヒートポンプが追加されることになりそうだ。