東京エレクトロンが先行…NANDで新技術、「クライオエッチング」導入の現在地
NAND型フラッシュメモリーに新技術導入が視野に入ってきた。従来に比べ極低温でエッチングする「クライオエッチング」だ。生成人工知能(AI)が普及する中、データセンター(DC)には大量のソリッド・ステート・ドライブ(SSD)が必要になり、NANDにはさらなるメモリーセルの多層化が欠かせない。今後、クライオエッチングはメモリーセルの多層化と製造コストを両立させる必須技術になる。(小林健人) 【写真】クライオエッチングの装置 メモリーセルを積み重ねる3次元(3D)NANDは積層数が増えるにつれ、メモリーホールの形成が難しくなる。当然、メモリーホールの形成により時間を要するようになることから、スループット(処理能力)の悪化につながる。 そこでクライオエッチングはガスの種類を変更するとともに、相対的に低い温度(マイナス50度Cより低い温度)でエッチングする。従来と比べ加工速度が速まる。キオクシアは2026年にも量産を計画する第10世代NANDでクライオエッチングを導入する意向だ。そのほか、韓国のSKハイニックスなども装置の評価を進めるとされる。 「顧客評価は順調に進んでいる。量産POR(顧客側ラインでの承認)獲得にも自信がある」。東京エレクトロンの河合利樹社長はクライオエッチングへの期待をこう話す。NAND向けのエッチング装置は米ラムリサーチが独占するが、クライオエッチングの研究開発では東京エレクトロンが先行する。同社はすでに複数顧客で装置の評価に入っており、26年度にも売り上げに貢献してくるとする。 同社の特徴はフッ化炭素(CF)系ガスを利用しないことだ。河合社長は「エッチング市場は非常に大きな市場だ。ネットゼロ(温室効果ガス排出実質ゼロ)を考えた際、メリットは大きい」と力を込める。 当然、東京エレクトロンの攻勢にラムリサーチも黙っていない。同社も新世代のクライオエッチング技術を発表した。ガスの種類を変更した上で、ウエハーの熱影響を低減しながらエッチングする。旧世代比で加工速度を2・5倍に高めた。また、消費電力も旧世代比40%低減した。同社はすでに導入されている装置もアップグレードすることで性能を向上できるとし、顧客評価を進めている。西沢孝則リージョナル・テクノロジー・グループマネージング・ディレクターは「すでに量産の現場で使われている点は重要なファクターだ」と自信を見せる。 今後AIの広がりとともにより多くのストレージが必要になる。NANDの技術革新にとってクライオエッチングはカギとなる。