「ジョブズはアスペルガーだった」説は迷惑… 精神科医が説く“不利ばかりではない”社会事情
「そういうことをズバッと言うところが、アスペルガーらしいと言うんです」
「『傾向』はありますが、仕事もプライベートも大きな問題はないようですし、今のところは『個性』に近い気がします」 無表情ながらも、「障害」を否定された意外感と安堵感が漂っているように、少なくともわたしには見えた。 「心理検査でははっきりわからないんですか?」「知識は十分すぎるくらい持っています。ただ、あの紙芝居みたいなやつ、あの成績が今ひとつです。そこが、アスペルガー傾向の一つの証拠と言えば証拠ですね。でも、そんな人はいくらでもいますよ、特に医者にね」 事実だから仕方がないが、医者には発達障害の特性を持つ者が非常に多い。医者を引き合いに出すと、患者は自身が持つ発達障害的な問題を悲観視せず、むしろ前向きにとらえることがある。 「先生も、アスペっぽいですよね。なんとなく」 「そういうことをズバッと言うところが、アスペルガーらしいと言うんです」 ここで裕介は、初めて自然な笑顔を浮かべた。共感性は、ちゃんとあるではないか。 「今日は知能検査の結果もお渡しします。あなたは頭がいいから、ネットで調べたりして、大まかには傾向がわかるはずです。障害ではなくとも、自分の欠点を知ることは、これからを生きる上で大切ですよ」 「わかりました」 このことを告げておくことは、重要である。今後状況が変化して、裕介の特性にとって寛容でない環境下に置かれれば、障害レベルに発展してくる可能性はゼロではない。 「今日のところは発達障害やらアスペルガー障害ではないと聞いて、どうでしたか。やはり安心したのか、それとも予測に反したのか……」 「どちらもですね。これまで自分でも『なんでここでこの人怒るんだろう』という違和感はあったんですが、発達障害のことを知ったら、『自分もそうなのかも』と思えて、ようやくその原因が見つかったのかも、というスッキリ感はありましたね。でも正直、『発達障害』とお医者さんに診断されるのは、やっぱりイヤですよ」