定食屋の魅力は「さもない料理」にある… 食を愛する文筆家が“おいしい”を語り合う
「定食屋」。そこには、日常の景色の中に潜む温かさと物語がある。 エッセイスト・大平一枝さんと小説家・原田ひ香さんが、「愛する定食屋を“書く”という仕事」をテーマに語り合います。 二人が感じる定食屋の魅力や、独自の視点で描くその在り方とは。 お二人ならではの深い洞察と、定食屋にまつわるエピソードをお届けします。
書くのに困ったときは「端から書いていく」
大平:今回、どなたとお話をされたいかというお話がありまして。もし叶うなら原田ひ香さんにと。私は定食屋の連載を6年前からやってまして、料理のおいしい店を紹介するんだけど、おいしさをうまく書けなくて。 そんな時編集者さんから「何かヒントがあるかも」と原田さんの本を勧められて、読み始めていたんです。 原田:私ももちろん『東京の台所』という名著は存じ上げておりますし、大平さんがあさイチとかに出る前から存じ上げていました。私もある編集者さんから「台所に関する小説を書きませんか?」というお話があったんですよね。で、その時に大平さんの作品を挙げられて。 大平:ありがとうございます(笑) 実は何年か前に青山ブックセンターで、たまたま稲田俊輔さんと原田ひ香さんの対談を直接拝聴したことがあるんです。 その時に会場の方が「書くのに困った時にどうしてるんですか?」って質問されたんですね。その時に原田さんは「とにかく端から書くの。見たものを端から丁寧に書いていくと、ちょっと凌げる。ちょっと楽になれる」ってお話されてて。ああ、小説家さん、そこまで話して……聡明な方だなという印象を受けました。 原田:(笑) 大平:私はインタビューの仕事も多く、そういうことを話される小説家さんは……いそうで喋らない方もいるので、その時になんだかすごく、人柄としても興味を持ちました。 原田:大したことはなくて、誰でもできますよって言うんですけど、お料理運ばれてきた、どんな人が運んできた、刺身醤油のお皿がこんな感じだとか、本当に端から端から書いていくというか、迷ったらそういう風に書いていく感じなんですよね。