「先にハマスが自爆テロを行い、それに対してイスラエルが報復しているのではない」日本人が理解していないパレスチナの惨状と、優秀な大学生ほど殉教者になってしまう理由
ハマスの実像 #2
罪のない民間人が犠牲になってしまう「自爆テロ」は、もちろんあってはならないものだ。だがイスラエルがガザ西岸を軍事占領し、パレスチナ人の生活を抑圧しているという現実を知らないと、暴力の連鎖の結果として「自爆テロ」があるという事実もまた理解できない。また、なぜ前途ある若者が自爆テロを行う殉教者となるのか、自爆攻撃を実行した優秀な大学生イスマイルの遺書から考える。 【画像】ハマス設立の中心人物:アフマド・ヤシーン 本記事は書籍『ハマスの実像」より一部抜粋・再構成したものです。
自爆テロの構図
自爆テロと言えばハマスのイメージが強く、大勢の犠牲者が出ることから、欧米や日本のニュースでは「イスラエルで自爆テロが起きて、イスラエル市民が犠牲になり、それに対してイスラエル軍が報復に出る」という流れとなる。パレスチナが「テロの加害者」であり、イスラエルは「テロの被害者」という構図ができ上がるが、問題はそれほど単純ではない。 客観的な構図として、イスラエルがガザ、西岸を軍事占領し、入植地を建設してパレスチナの生活を抑圧しているという現実がある。その反発として、ハマスなどパレスチナの武装勢力がイスラエル兵に対する銃撃や入植地に対するロケット攻撃をする。 その報復としてイスラエルがミサイルや戦車による報復に出て、パレスチナの民間人が死傷する。ハマスがイスラエルの民間人に対して行う自爆テロは、そのような暴力がエスカレートした後に出てくる場合が多いのだが、日常的な状況悪化が報じられることはなく、国際ニュースはハマスの自爆テロから始まり、イスラエルによる大規模報復への流れになる。 2002年に国際的人権組織ヒューマン・ライツ・ウオッチが「イスラエル市民に対する自爆攻撃」の報告書を出した。その中に、ハマスでアフマド・ヤシーン(ハマス設立の中心人物)につぐナンバー2だったイスマイル・アブシャナブの言い分が掲載されている。 「(我々が)市民を標的にしているわけではない。向こう(イスラエル)が我々の民衆を攻撃するから、我々も向こうの市民を攻撃する。我々が民間人攻撃を止めたら、国際社会はイスラエルも止めると保証してくれるのか? この戦いのルールはイスラエルがつくっている。もし、あなたたちが我々のすべての殉教/自爆攻撃を調べたら、すべて(イスラエルによる)虐殺が先にあることを知るだろう。もし、イスラエルが(国際人道法を)守るならば、我々も受け入れる。あなたたちが私たちに国際人道法を守れと言うなら、それは難しいことではない。イスラムの教えも(民間人の保護を求める)ジュネーブ条約を支持する。しかし、相手(イスラエル側)が守らなければ、我々が義務づけられるわけにはいかない」 ハマスの最初の自爆テロは、1994年4月に起きた2件である。 それについてハマスは、2月25日に西岸南部にあるパレスチナ都市ヘブロンのイブラヒム・モスクで行われた金曜日の集団礼拝の場に、隣接するユダヤ人入植地キリアト・アルバの入植者男性が入って銃を乱射、29人のパレスチナ人を殺害した虐殺事件への報復であるとの声明を出した。 自爆テロは4月6日、イスラエル北部のアフラ中心部の路上でカッサーム軍団の戦士が爆発物を積んだ乗用車をバスの隣で爆発させ、イスラエル人9人が死亡、150人以上が負傷した。さらに4月13日、イスラエル中部ハデラでカッサーム軍団の戦士が自爆ベルトを身体に巻いて路線バスに乗って爆発させ、イスラエル人5人を殺害、30人以上が負傷した。
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