『ベイビーわるきゅーれ』人気の秘密は『週刊少年ジャンプ』の“新原則”? 努力より個性が際立つシリーズの魅力とは
<日常>と<非日常>の的確なチューニング
さらに『ベイビーわるきゅーれ』の大きな強みとして、ダラダラ過ごす<日常>と殺し屋としての<非日常>のバランスを、TPOに応じてうまくチューニングできることが挙げられる。 ドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』が放送されている「水ドラ25」は、『ソロ活女子のススメ』や『とりあえずカンパイしませんか?』など、女性を主人公にしたゆるーい日常系ドラマが数多く作られてきた枠。そこに「ベビわる」はちょっと異色すぎるような気がするが、阪元裕吾監督は映画版よりも<日常>の目盛りを大きくすることで、「水ドラ25」枠にうまくアジャストしている。 象徴的なのが、第5話。伝説の殺し屋・宮原(本田博太郎)によるプロジェクト「風林火山」に無理やり駆り出されたちさと&まひろが、共同合宿に参加。宮原のモチベーション維持に欠かせない釜めし弁当が届かないことが発覚し、彼にバレないように弁当を再現しようとメンバー全員が奮闘する、三谷幸喜が書きそうなシチュエーション・コメディが展開する。 やがてプロジェクトマネージャー夏目(草川拓弥)の暴言に端を発して「殺し屋協会ハラスメント防止委員会による徹底指導」が行われ、「殺し屋演出家・桑原による、ターゲットを騙すことを目的とした殺し屋演技レッスン」が熱を帯び、そうしたら桑原も暴言を吐いて再び「殺し屋協会ハラスメント防止委員会による徹底指導」が行われ、どうにかこうにか立案計画が固まって「作戦決行前夜 決起飲み会」が開かれる。めんどくさいおじさん上司に振り回される日常が、コミカルに描かれているのだ。 もちろん映画版は、目盛りを<非日常>に大きく振っている。シリーズを重ねるごとにスケールもデカくなって、特に『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』のクライマックスは、日本映画でも最上級の本格アクション。緩急の切り替えが非常に巧みなのだ。 あらゆるターゲットに受け入れられる間口の広さ。 『少年ジャンプ』的なエンタメ感。 敵役の徹底的な描き込み。 <日常>と<非日常>の的確なチューニング。 エンタメ界を席巻する『ベイビーわるきゅーれ』サーガには、たしかにヒットするだけのポテンシャルと戦略が備わっている。その熱気は、さらに高まっていくことだろう。阪元裕吾監督による次の一手が楽しみだ。
『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』作品情報
監督:阪元裕吾 アクション監督:園村健介 キャスト:髙石あかり、伊澤彩織、水石亜飛夢、中井友望、飛永翼、大谷主水、かいばしら、カルマ、Mr.バニー、前田敦子、池松壮亮 公開:2024年9月27日(金)より全国公開中
竹島ルイ