アマゾン、AI新興アンソロピックに40億ドル追加投資
米アマゾン・ドット・コムは、生成AI(人工知能)開発の米新興企業アンソロピック(Anthropic)に新たに40億ドル(約6200億円)を出資する(発表資料)。アマゾンは2023年9月からアンソロピックへの出資を開始し、24年3月にはその額を40億ドルに引き上げた。今回の出資で、累計出資額は80億ドル(約1兆2400億円)と、倍増する。 英ロイター通信によると、まず13億ドルを投じ、その後残りの27億ドルを投資する。アマゾンは引き続きアンソロピックの少数株主にとどまる。 ■ 出資は戦略提携の一環 アマゾンのアンソロピックへの出資は、両社の戦略提携の一環だ。アンソロピックはアマゾンのAI半導体を活用し、AIソフトウエアを構築・展開している。アマゾンはアンソロピックの技術を、クラウドコンピューティングサービス「Amazon Web Services(AWS)」で提供し、顧客企業が生成AIを自社サービスに組み込めるようにしている。 アンソロピックは今後、AWSが開発した機械学習(マシンラーニング)の推論に特化した半導体「Inferentia(インファレンシャ)」や学習専用半導体「Trainium(トレーニアム)」を使い、自社のAI基盤モデルを学習させる計画だ。 今回の出資を受け、アンソロピックは機械学習ハードウエアの開発に取り組み、生成AIの開発を進める計画だと述べた。 アンソロピックは、米オープンAI出身の兄妹、ダリオ・アモデイ氏とダニエラ・アモデイ氏によって21年に設立された。同社は生成AIの基盤となる大規模言語モデル(LLM)「Claude(クロード)」を手がけている。
■ AI新興への巨額投資、テック大手に短期的メリット こうしたAIスタートアップへの巨額投資は、クラウドサービスを提供するテクノロジー大手にも利益をもたらすと指摘されている。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は23年、情報筋の話として、アンソロピックが今後5年間でアマゾンのクラウドサービスに40億ドルを支出することを約束したと報じた。 23年11月にはグーグルがアンソロピックに20億ドルを追加出資することに合意したと報じられた。WSJによれば、この合意はアンソロピックがグーグルのクラウドサービス「Google Cloud」に30億ドル(約4600億円)以上支出することに合意した数カ月後に行われた。 米マイクロソフトはオープンAIに累計130億ドル(約2兆円)超の出資を行ったとされるが、オープンAIはマイクロソフトのクラウドサービスに数十億ドルを費やしている。これらAIスタートアップの最大のコストがクラウドコンピューティングの利用料となっている。WSJは、出資金のほとんどはクラウド収益という形で、テクノロジー大手に還元されていると指摘する。 AIブームは近年、テクノロジー業界を大きく変革しており、この技術に投資しない企業は後れを取るともいわれている。こうした中、テクノロジー大手は将来有望なAIスタートアップとの関係を構築しようと、投資拡大の競争を繰り広げている。米調査会社のPitchBook(ピッチブック)によると、23年の生成AI企業への投資額は約300億ドル(約4兆6000億円)に上った。 ■ テック大手との提携、競争当局が競争阻害を調査 一方、米連邦取引委員会(FTC)は24年1月、テクノロジー大手によるAI投資や提携について調査していると明らかにした。調査対象となったのは、マイクロソフト、オープンAI、アマゾン、アンソロピック、グーグル(アルファベット)などである。大手がAIの開発と市場環境において、競争を阻害しているのではないかと疑っている。 マイクロソフトはオープンAIとの包括的なパートナーシップの一環として、オープンAIの理事会にオブザーバーとして幹部を参加させていたが、24年7月に理事会から離脱した。iPhoneなどの生成AI「Apple Intelligence(アップルインテリジェンス)」で対話型AI「Chat(チャット)GPT」を導入する米アップルも、オープンAIの理事会に参加すると報じられていたが、結局加わらないことが明らかになった。当局による厳しい反トラスト法調査や、その結果として生じ得る是正措置を事前に回避する狙いがあったとみられる。 他方、英当局の競争・市場庁(CMA)はアマゾンのアンソロピックへの出資について予備調査を行っていたが、24年9月に正式な調査には移行しないと決めた。この投資が英国内の競争に脅威をもたらすものではないと結論付けた。
小久保 重信