鎌田大地の新たな挑戦と現在地。日本代表で3ゴール関与も、クリスタル・パレスでは異質の存在「僕みたいな選手がいなかった」
背景にある練習不足。「そこはまたチームメートと話していきたい」
攻撃的MFとして先発したブレントフォード戦で、鎌田は相手DFの背後に抜けるランを意識的に行っていたという。ポイントは、最終ラインを高い位置に設定したブレントフォードのアプローチ。相手の出方を正確に読み取り、前に仕掛ける走りが「効果的」と判断した。 「相手のDFラインが結構高い位置にあった。だから、自分が足元でボールを受けるより、できるだけ背後に抜け出そうと思っていた。 (攻撃的MFでコンビを組んだ)チームメートのエベレチ・エゼは、あまりそういうタイプの選手ではない。その分、自分が裏に抜け出していって、という感じに思っていました。自分が良いタイミングで動き出した場面も何回かあったので、そこはまたチームメートと話していきたい。ブレントフォードのような相手に対しては、『足元、足元』でパスをつなぐより、(相手DFラインの)背後で少しプレーできると、チャンスがより作れると思う。今後のチームミーティングでも、そういう話になると思う」 背景には練習不足もあった。 最前線に陣取るセンターフォワードのジャン=フィリップ・マテタは、フランス代表のオーバーエイジ枠で7月から行われたパリ五輪に出場。また、攻撃的MFのエゼはイングランド代表の一員として6月のUEFA EUROに参加した。彼らは休暇を挟んだためチーム合流が遅れ、開幕戦の時点で鎌田とはほとんど練習ができなかった。 「マテタやエゼとは1週間ぐらいしか練習できていない。どちらかと言うと、彼らはコンビネーションより、個のクオリティーでプレーできてしまうタイプ。ただ逆に、お互いを使うところは使ったりしていけば、攻撃の幅がもっと広がると思う。このあたりは時間がもう少しあれば、もっと良くなるのかなという感じですね」
チームの攻撃を「剛」と表現するなら、鎌田のそれは「柔」
振り返ると、近年のクリスタル・パレスは、個人技を全面に押し出したサッカーを展開してきた。端的に言えば「堅守速攻」である。今年2月まで指揮を執ったロイ・ホジソン監督は守備的な堅実なサッカーが持ち味で、しぶとく勝ち点を重ねることでリーグ中位を維持してきた。良く言えば安定感はあるが、選手3~4人が連動して崩すアタックは少なく、攻撃は個人技に頼る傾向が強かった。 しかし健康上の理由からホジソンの退任が決まり、新たにオリバー・グラスナー監督がやって来た。オーストリア人指揮官は、フランクフルト在任時代に鎌田を指導。ピッチでは攻撃的な「3-4-2-1」を採用し、人もボールもよく動くアタッキングフットボールを植え付けようとしている。 クリスタル・パレスの特性から考えるなら、鎌田のプレースタイルは異質だ。相手守備陣の「間(あいだ)」に滑り込み、パスを受ける。チャンスと見ればDFラインの背後に飛び出し、味方からスルーパスを引き出す。さらにパスの出し手になり、縦パスからチャンスを生み出すこともできる。クリスタル・パレスの攻撃を「剛」と表現するなら、鎌田のそれは「柔」と言えるだろう。おそらくグラスナー監督は、鎌田のような選手をクリスタル・パレスに組み込むことで、チーム内での化学反応を期待しているのではないか。 その鎌田が徐々にチームにフィットしてきた印象を残したのが、9月1日の第3節チェルシー戦だ。鎌田は3-4-2-1の攻撃的MFとして再び先発。この試合で目についたのはパスの「出し手」としての動きで、右ウイングバックのダニエル・ムニョスへのスルーパスで好機を演出するシーンが複数あった。そのムニョスからリターンパスを受け、GK強襲の力強いシュートを打った場面も。アウェイマッチに乗り込んだクリスタル・パレスのサポーターを大いに沸かせた。 1-1の引き分けに終わったこの試合で、英サッカーサイトの『90mins』は鎌田に「6点」の及第点をつけ、「素早い状況判断とワンタッチパスで攻撃をうまくまとめた」と評した。地元ニュースサイトの『ニュース・ショッパー』も「6点」とし「プレミアリーグに適応し始め、試合ごとに調子を上げている」と前向きに伝えた。鎌田は8月27日に行われたリーグカップのノリッジ戦(英2部)で加入後初ゴールをマークし、アシストも記録。加入から2カ月が経過し、緩やかに調子を上げてきたと、そう評価できるだろう。