「ワイヤレスヘッドホンは個性として主張する時代になったのか?」:メーカーさんいらっしゃい!
SNSとアスリート、そしてヘッドホン
──SNSが当たり前の時代ですが、ヘッドホンにYouTubeなどSNSの影響はありますか? 中西さん(ソニー):すごくあります。K-POPアイドルやスポーツ選手がヘッドホンを首にかけている姿がSNSに上がっていることで、今までヘッドホンを買ってこなかった層の人たちが手に取ってくれるようになりました。私はZ世代なのですが、ちょっと前まで周りの同世代は誰も使っていなかったのに、ここ2年くらいでおすすめのヘッドホンをよく聞かれるようになりました。やっぱりそこにもSNSの影響が大きいと思います。 大房さん(Bang & Olufsen):そうですよね。デンマークのデザインチームも、やはり他社さん同様インスタやTikTokなどは重視していると言っていました。以前、サッカーの日本代表選手がインスタに弊社のヘッドホンを載せていただいていて反響がありました。 塚本さん(JBL):SNSに限らずアスリートの影響も大きいですよね。弊社もパリ五輪で金メダルが期待されているブレイキン選手のShigekixさんにご協力いただいていて、ダンサー界隈からの発信を今お願いしているところです。 國分さん(オーディオテクニカ):アスリートはモチベーションや集中の点で、音楽と密接に関係している感じがあるので、ヘッドホンと親和性が高いですよね。
「ラグジュアリーな音楽体験」への各メーカーのこだわり
──ギズが行なったアンケートからは、現在のヘッドホン人気には、ファッションアイテムの側面以外にも「いい音で聴きたい」というニーズもあるのではないかと感じます。イヤホンと比べて、ヘッドホンは音が良いのでしょうか? 國分さん(オーディオテクニカ):何を持って「音が良い」とするかは人それぞれですが、イヤホンと比べて「ドライバー」と呼ばれるスピーカー部分が大きいので「ヘッドホンは低音が出しやすい」とは言えますね。 ──オーディオテクニカのヘッドホンは、海外のレコーディングスタジオで有名アーティストが使っているのをみますね。 國分さん(オーディオテクニカ):はい、欧米のスタジオでは弊社のモニターヘッドホンをよく使っていただいています。ドライバーと筐体、アナログ部分の作りがミソなので、それをデジタルのワイヤレスヘッドホンに落とし込むのは大変なのですが、音楽制作をされる”プロシューマー”の方々から同じヘッドホンの音をワイヤレス化して欲しいという声に応える形で製品化までしています。弊社ではデジタル製品でもアナログな音をなるべく崩さないよう、音響スペースと電気スペースは分離するなどの工夫をしています。それはモニターヘッドホンに限らず、一般的な民生品でも同じ思想で設計・開発しています。 舘さん(Bowers & Wilkins):Bowers & Wilkinsは1981年に音の研究機関をイギリスに設立して、ハイエンドスピーカーからワイヤレスヘッドホンまで一貫したトゥルーサウンドへのこだわりを持って開発を行っています。ヘッドホンに関しては、まずはこれから流行るであろうデジタルテクノロジーをアコースティックなスペースに収め、その上で装着感を決め、最後に外観のデザインを仕上げています。 塚本さん(JBL):弊社も西海岸にラボがあって、JBLを含むハーマングループが出す全ブランドにとっての理想の音響カーブがあり、そこを目指して製品は設計しています。さらに、最終的にはゴールデンイヤーと呼ばれる優れた耳を持つスペシャリストが認めたものだけが世に出るようになっています。 大房さん(Bang & Olufsen):B&Oにはそうした理想とするカーブはなくて、我々はポータブルスピーカーから大型のスピーカーまで幅広く製品を展開していますが、その開発者は「そこにスピーカーが意識してしまうものはよくない」と言っています。つまり、最初に音楽があるという発想ですね。具体的なところでは、ヘッドホンの音響的には硬くて軽い素材が好ましいので、今日持ってきたこちらのヘッドホンには40mmのチタンドライバーを採用しています。 中西さん(ソニー):ソニーも基本的には「硬くて軽い素材」を使うことをコンセプトとしています。また、B&Oさん同様にソニーにも理想とするカーブはなく、音響設計者がNYの契約スタジオに行って、そこで働いているエンジニアの意思を汲み取って製品に落とし込んでいくようなケースもあります。ただ、それだけだと一般のお客さんにはウケない部分が出てしまうので、いろんな点でバランスをとるようにしています。 ──音楽ジャンルを意識することはありますか? 中西さん(ソニー):商品によって違いますね。重低音モデルはヒップホップなども意識しますが、WH-1000XM5はいろんな層のユーザーが使うのでクラシックからアニソンからなんでも聴いて最終的に判断しています。