美大卒起業家の問いが形に 広がるデジタル名刺「プレーリーカード」
ビジネスの手応えと葛藤
2024年春、プレーリーカードの正式発売から一周年を迎えた。「紙名刺を使わなくなった」「名刺交換が楽しくなった」と出会いの文化は少しずつ変化をみせている。 そんな中、新たに発売したのが木材素材のデジタル名刺だ。環境配慮の観点から、ユーザーだけでなく法人利用にも需要があるという。大学時代に木工を手がけた坂木は「木材の自然なあたたかみを、出会いの時にも感じてほしい」と話す。 ■あふれる問いを抱えて スタートアップとして順調な成長を見せているが、もとは友達への純粋な気持ちから誕生したもの。今後スケールするために”筋肉質”なスタートアップの道を進むことに、クリエイターとして抵抗はないか、坂木に尋ねた。 「最初は自分が投げた問いが、反応となって返ってくることに純粋な嬉しさを感じていました。ユーザーが増えていくにつれ、嬉しさが倍増していく気持ちがあるのと同時に、ビジネスにコミットすることに狭さを感じることもあります」と素直な気持ちを明かす。 一方で、アーティストがビジネスを成長させる可能性をも自覚する。 「出会いの文化をイノベーションする。これを実現するためには個人、法人、自治体などあらゆる出会いの場にプレーリーカードを増やしていくことが必要。出会いの縁は個人のものなのか、企業に属する名刺データなのかといった割り切れない課題こそ、クリエイティブで解決していきたい」 紙の名刺か、デジタル名刺か。企業人か個人か。白か黒かではなく、文化の更新はグラデーションで進む。その変化の中で、「この人はこんな活動もしているのか」という豊かな出会いの場が増えていく世界線を坂木は望む。 起業家兼アーティストの彼女は、スタートアップをしながら、時には絵を描き、出張ついでに旅をすることもある。流れに逆らわず、常に「ものづくり」「文化」「出会い」のある場所に身を置くことで、新しい問いが生まれ続けるのだという。次の問いが社会に投げられる時、そのアウトプットはビジネスなのか、アートなのか。彼女には愚問である。 坂木茜音◎スタジオプレーリー共同代表。株式会社ロフトワークでアート事業を中心にクリエイティブディレクターを務める。京都美術工芸大学・京都建築大学校で伝統工芸・アート・建築を学ぶ。世界を旅した後、東京北千住で「アサヒ荘」の管理人となる。
Forbes JAPAN 編集部